「リモートワークでコミュニケーションが減った」 実際何が問題なのか? 調査データを基に解説:「総務」から会社を変える(4/4 ページ)
『月刊総務』編集長の豊田健一氏による、総務とDXを巡る連載。リモートワークの浸透でコミュニケーションが減ったことはよく課題に挙がる。では、コミュニケーションが減ると、実際にどんなデメリットが生まれるのか? 調査を基に解説していく
最終的にはエンゲージメントの低下にも
最後に、エンゲージメントに関する調査結果も紹介する。
調査で従業員へ会社の方向性を伝えにくくなったと回答した企業に対し、伝えにくくなったことで社員のエンゲージメントに変化はあるか尋ねたところ、「とても低下している」「やや低下している」が合わせて95.7%と、ほとんどの企業が社員のエンゲージメント低下を感じていることが分かった。
筆者はこれが最大の課題であると考える。リモートにより、会社とのつながりが低下し、その結果、方向性が伝えにくくなり、エンゲージメントが低下していく――。確かに、リモートワークにより、目の前の仕事の生産性は高まることはあるかもしれない。しかし長期的に見た場合、エンゲージメントの低下は、生産性の低下に直結するものだ。
生産性は、「効率」だけではない
生産性の向上を、「効率性の向上」と「創造性の向上」に分解した場合、エンゲージメントの低下は、特に創造性の向上へ悪影響を及ぼす。
企業の事業継続、そして発展のためには、新たな取り組みや変化が必要である。そのためには創造性の向上は必須だ。リモートで効率性は向上したとしても、人と人とのつながり、人と組織とのつながり、そしてそのつながりをベースとした協働意欲、エンゲージメントの向上には、やはりリアルの場が必要なのである。
人が身にまとう雰囲気やオーラ、熱量というのは、なかなか画面越しでは伝えたり感じたりすることができないものだ。つまり、仕事のモチベーションを高め、帰属意識やエンゲージメントの醸成へつなげるためには、「思いに共感する」「感動する」といった機会を作ることも必要だ。
そのためには、やはりリアルな場での対面コミュニケーションは避けて通れない。逆に、冷静に議論するのであれば、Web会議の方が有効だ、という場合もあるだろう。このように、今後は場所だけでなく、コミュニケーションに関しても「ハイブリッド」が主流になっていくだろう。
著者プロフィール・豊田健一(とよだけんいち)
株式会社月刊総務 代表取締役社長 『月刊総務』編集長
早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルート、株式会社魚力で総務課長などを経験。現在、日本で唯一の管理部門向け専門誌『月刊総務』を発行している株式会社月刊総務の代表取締役社長、『月刊総務』の編集長。一般社団法人ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアムの副代表理事や、All Aboutの「総務人事、社内コミュニケーション・ガイド」も務める。
著書に、『マンガでやさしくわかる総務の仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)、『経営を強くする戦略総務』(日本能率協会マネジメントセンター)
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