「守り」が「攻め」にもなる――日本郵便に学ぶ、セキュリティ起点でビジネスをアップデートするカギ:タブレット端末の活用
全国に2万以上の郵便局を展開する日本郵便。コロナ禍で各郵便局間の対面コミュニケーションが難しくなり、Web会議の導入を迫られた。ユニバーサルサービスを提供するがゆえにセキュリティ面で万全を期す必要がある中、同社が選んだのは「Cisco Umbrella」だった。
日本全国に2万以上の郵便局を展開する日本郵便。東京にある本社を中心に、全国に13の支社、さらにその下には地区連絡会や、市町村単位などで区切られた部会など、巨大かつ複雑な組織を抱える。
巨大な組織を率いて円滑かつスピーディーにビジネスを運営するには、綿密な意思疎通やコミュニケーションが欠かせない。しかしコロナ禍によって大規模な人数が集まることが難しくなり、従来方式での会議などができなくなった。そこで同社が活路を見いだしたのが、全ての郵便局に配置しながらもなかなか活用しきれていないタブレット端末(iPad)だった。
とはいえ生活インフラを提供し、金融商品などを扱う同社では、セキュリティへの気配りも欠かすことができない。全国各地の郵便局をセキュアにつなぎ、危機に直面してもビジネスを止めないためにはどうすればよいのか。そこで同社が選んだのが、シスコシステムズが提供する「Cisco Umbrella」だった。
「トータル生活サポート企業」を標ぼう
同社のiPad活用を主導するのが、トータル生活サポート事業部だ。同事業部は、事業にかかわるシステムの開発やサービスの企画検討などを行っている。同社の標ぼうする、顧客ひとりひとりに合わせた多様なライフスタイルやライフステージをサポートする「トータル生活サポート企業」というビジョンに基づき設立された部署である。
ただ、コロナ禍によって業務に変化が生まれているようだ。同事業部で課長を務める栗林秀樹氏は「春ごろから全社的なタブレット活用のニーズが高まっており、現在はそちらへの対応が増えています」と話す。全国の郵便局間などで行う会議がコロナ禍で難しくなり、その代替策として全局へ配置していたタブレット活用のニーズが高まった形だ。
同社では、高齢社会や特に地方部で顕著な若年人口の減少といったことを背景に17年から郵便局のネットワークを生かしたソリューションの「みまもりサービス」を展開している。月に1回、局員などが顧客のところへ行き生活状況などの報告書を作成する「みまもり訪問サービス」、毎日定時に電話連絡を通して生活状況を確認する「みまもりでんわサービス」、そして緊急時などの要請に応じて警備員を派遣する「駆けつけサービス」の3つからなるソリューションだ。このうち、みまもり訪問サービスで生活状況確認を実施するために、もともと全局へiPadを配置していたのだ。
全郵便局にあるiPadを活用しきれていなかった
ただ、全局へiPadを配置しても、みまもりサービスだけでは稼働率は高くない。「iPadが郵便局にあっても、活用できていないケースが多くありました」と同事業部主任の土田萌氏は振り返る。もちろん、みまもりサービス以外でも、扱っている金融商品の説明などでタブレットを活用している事例は一部あった。しかし、本格的な活用はなかなか進まなかったという。
利活用が進まなかった理由は、ネットワークのキャパシティーやセキュリティ面にあった。従来はみまもりサービスを前提としたVPNの帯域設計だったため、Web会議などを頻繁に活用するには、やや心もとない。また、閉域ではなく一般のネットワークへ接続するには、セキュリティの面でリスクが高まってしまう。トータル生活サポート事業部主任の倉持尚也氏は「金融商品など、センシティブな情報を含むサービスも当社では提供しています。お客さまに安心安全を届けるという意味で、セキュリティはおろそかにできない要素でした」と話す。
そんな中、新型コロナウイルスの感染が拡大。多くの企業と同様に、日本郵便でもWeb会議のニーズが高まっていった。
もともとあった「Web会議ニーズ」 コロナ禍で加速
「新型コロナがWeb会議を導入するきっかけにはなりましたが、もともとニーズ自体はあったと考えています。全国2万の郵便局が一体感を持ちながらさまざまなサービスを提供していくには円滑なコミュニケーションが不可欠なため、郵便局間では多くの会議が行われています。新型コロナの感染が広がる以前も、広範な地域から集まって会議をすることは、交通費のコストなどが課題ではありました。金銭的なコストだけでなく、フロントラインで業務する社員の時間や労力の負担も課題でした」と倉持氏は話す。コロナ禍もあり、「Web会議の導入、待ったなし」(倉持氏)という状況になったことで、4月ごろから閉域網ではなく一般のネットワークに接続でき、セキュリティ面でも安心できるソリューションを検討し始めることに。
ソリューションの選定に際しては、iPadが接続する閉域網にNTTドコモの回線を使用していたことから、ドコモと協力した。その結果、日本郵便はシスコシステムズのCisco Umbrellaを導入した。ドコモ側の担当者である神田将輝氏は「コロナ禍ということでスピーディーな対応が求められることと、ユーザー様や管理担当者様が細かい設定を行わなくてもセキュリティが担保できるという点から、Cisco Umbrellaをご提案いたしました」と話す。
セキュリティとパフォーマンスを両立する「Cisco Umbrella」
Cisco Umbrellaは、クラウドを通してセキュアなネットワークアクセスを提供するソリューションだ。具体的には、DNSレイヤーでのセキュリティやファイアウォール、セキュアウェブゲートウェイなどが連携し、高いセキュリティを提供する。世界中で展開していることから、日々多くのデータを蓄積しており、機械学習などを通して“未知の脅威”に対する備えが万全な点も特徴だ。
高度なセキュリティだけでなく、高いパフォーマンスを両立している点もCisco Umbrellaのポイントだといえる。多くのセキュリティソリューションでは、全てのトラフィックを検査するフルプロキシを提供しているが、Cisco Umbrellaでは選択したトラフィックを検査する「セレクティブプロキシ」での運用も可能だ。これにより、Web会議ツールなどを多用するようなケースでも、ネットワークが逼迫することなくストレスフリーな通信を実現できる。実際、日本郵便ではこれまでも一部でWeb会議を実施した際、会議が集中するタイミングで通信遅延もあったというが、Cisco Umbrellaの導入後には遅延や不通などは起きていないという。
また、神田氏が評する通り、クラウドで提供するためハードウェアの購入・設定やソフトウェアの保守などが必要なく、ユーザーや管理者は初期設定や運用の手間がかからないところもメリットに挙げられる。
運用のしやすさ、コスト面にも優位性
特に日本郵便のような大規模企業では、一つのアプリやソフトウェアを端末にインストールするだけでも管理部門に大きな負担がかかる。今回の導入に際しては、ドコモ側でインストールや構成プロファイルの流し込みが済んでいたということもあり、「当社としては郵便局に届いた端末に電源を入れるだけで導入が済みました」と倉持氏は笑顔で話す。自社だけで導入する際も、アプリやプロファイルのインストールなど、最低限の操作で実装できる。そのため、コロナ禍のような緊急対応を要する際でも、混乱なく導入できるだろう。
導入後の運用について、端末単位でポリシーを変更できる点に使いやすさを感じているという。「従来は、端末ごとにポリシーの制御ができませんでした。一方、Cisco Umbrellaでは端末ごとにポリシーを変更することができます。今後目指しているタブレットの有効活用に関する試行錯誤がとてもしやすい点は、導入後に感じたメリットですね」(倉持氏)
コスト面に関しても、優位性を持つ。多くの他社製品では、トラフィック量に応じた料金体系になっているため、便利さとコストがトレードオフになってしまう。一方、Cisco Umbrellaではトラフィック量ではなくユーザーライセンス式の料金体系であるため、通信料が増えても直接的なコスト増にはつながらない。今後IT活用を強力に推進していきたい企業にとってはうれしい料金体系だといえる。
セキュリティ起点での業務改革を目指す
このように、セキュリティ・パフォーマンス・コストに優れたCisco Umbrella。導入によって日本郵便は、会議だけでなく社員のスキル向上を目的に実施している研修のオンライン化など、既に効果が表れている。今後の活用展望についてはどのように考えているのだろうか。
栗林氏は「現在iPadの配備数は約2万台ですが、さらなる増備と利活用が検討されています」と話す。その上で、紙ベースで行っている業務や顧客からの申し込みなどをデジタルへと移換していく考えを示した。具体的には、カタログ販売の効率化や、バックヤード業務の負担軽減などの例が挙がった。
自動運転車やドローンの導入など、ITを活用した業務改革を進める日本郵便。祖業の郵便分野だけではなく、広く物流分野でも新たな価値を生み出していく必要性に迫られる中で、Cisco Umbrellaの活用がこれからさらに進みそうだ。
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