菅政権発足から日銀のETF爆買い急失速、それでも不透明な45兆円の出口戦略:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/3 ページ)
日本は「一国の中央銀行が株を買って景気刺激策とする」という、世界でも類を見ない特殊な金融政策を実施している国である。しかし、菅義偉政権発足以降、日銀のETF買い入れが急激に鈍化している。
日銀がこのような運用を行う背景として、まず日銀は金融政策のプロであっても運用のプロではなく、運用のための人員がない点が挙げられる。実際に投資した資金をプロの機関投資家に任せる金融商品の「ETF」に振り分けることで、「餅は餅屋」の運用を果たすのが一点目である。
もう一点にして重要な点は、「ETFを介することで投資主体の匿名性が担保される」という点だ。仮に、日本銀行が直接大株主欄に飛び出してきてしまえば、個人投資家を中心に「日銀のお墨付きを得た」と認識し、投機的な取り引きを呼び込んでしまうリスクがある。そこで、ETF投資によって間接的に一部の企業の株式を大量に保有するに至ったとしても、過当な取引を引き起こさずに政策目的を実現できるとされていた。
しかし、現在では、日銀による買い入れの規模が大きすぎるため、ETFを隠れ蓑(みの)としてもその尻尾を隠し切れていない。東証一部上場企業の実に2割以上で、日本銀行が事実上の大株主となっていることが観測されている。日経平均株価指数に大きく寄与している値がさ株のファーストリテイリングを中心に、“日銀買い”とその株式の値上がりが連動してしまう場面もみられている。
2020年4月に執筆した記事では、日銀のETF購入が「格差拡大」や「コーポレートガバナンス低下」を引き起こすなどの問題点を指摘した。年々影響力が高まってくる日銀の存在感を市場が無視できなくなりつつあることも、首相交代後のETF購入が消極化した要因となっているのかもしれない。
また、足元では1980年頃のバブル以来の株高でもある。中央銀行が高値を追うような取引を自粛し、来る急落の日に備えて余力を確保するという意図もあって、特に日経平均3万円以上の歴史的高値圏ではETF購入を差し控えていることも意図されているのかもしれない。
関連記事
- 電通が史上最大の巨額赤字……高くついた「のれん代」の恐ろしさ
電通グループが15日に発表した2020年12月期の通期決算によれば、当年における最終赤字は同社としては史上最大の1595億円となった。しかし本業では黒字である。最大の要因は、海外事業における「のれん」の減損損失1403億円だ。 - コロナで日経平均が3万円を超えても安易にバブルといえない理由
日経平均株価指数は8日、2万9388円50銭を記録し、バブル期の1990年8月から約30年6カ月ぶりの高値を記録した。しかし、日経平均株価の仕組みからして、最高値である「3万8957円44銭」はいずれは更新されてしかるべきだ。1989年の日経平均と、2021年における日経平均は全く別の指数だからだ。 - 米ゲームストップの暴騰・暴落劇 裏側で親たちに利用されるジュニアNISAの惨状
ここ1カ月で20倍近い急騰を遂げた米国のゲームソフト小売大手チェーン「ゲームストップ」の株価が暴落している。この銘柄は、ジュニアNISA口座を使って“ギャンブル”にも使われたようだ。 - “熱狂なき価格上昇”のビットコイン、いち早く“バブル超え”を果たせた理由
約3年前、ビットコインは“終わった”と思われていた。しかし、足下ではそんなビットコインバブルの最高値230万円台をさらに100万円以上も上回り、1BTC=382万円で推移している。しかし、今年のビットコイン相場では、17年末から18年初頭に見られたような熱狂がそこにはない。熱狂なき価格上昇により、ひっそりと高値を更新し続けている。 - 2021年は「呪術廻戦」が“ネクスト鬼滅” 「〇〇の呼吸」はもう時代遅れに?
若年層の関心について検討を深めると、2021年は鬼滅の刃でよく用いられた「○○の呼吸」や「全集中」といったワードが、「領域展開」という決めゼリフに置き換えられつつあることが分かった。今回は、「領域展開」という“謎の単語”の理解を深め、21年のトレンドを確認したい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.