『ヤングジャンプ』編集者に聞く、スタートアップ漫画『スタンドUPスタート』ヒットの舞台裏:ビジネス漫画のヒット術(5/5 ページ)
『週刊ヤングジャンプ』に連載中の『スタンドUPスタート』は、生きづらさを感じている人たちが「スタートアップ(を起業)しよう!」と主人公から誘われ、起業を通して自由な生き方を獲得していく漫画で、スタートアップをテーマにした点で注目を集めている。集英社の『週刊ヤングジャンプ』副編集長の春日井宏住氏と担当編集の塚本剛平氏などにヒットの舞台裏を聞いた。
読者に自分事と思わせるには?
――主人公の三星大陽とは別に、生きづらさを感じているキャラクターが次々と出てきて、スタートアップをしていくストーリーには、どのような狙いがあるのでしょうか。
塚本: 読者に「自分の物語」だと思ってもらうためだと思います。私は『スタンドUPスタート』の担当としては2代目で、連載が始まった時は別の部署にいました。担当ではなく一読者として、読者と同じ立場で作品に触れたわけです。
それまで起業は特別な人にだけ許されたことで自分とは縁遠いものだという意識がありました。ですが、自分にも理解・共感できる悩みや生きづらさを抱えたキャラクターたちが描かれることで、起業は特別なことではなく、働き方や生き方の選択肢の一つだと素直に理解できたと思います。
――主人公の三星大陽のモデルとなる人物はいるのでしょうか。
塚本: 福田先生からは「大陽のモデルは特にいない」と聞いています。漫画の主人公は何か問題を解決してくれる人、打ち破ってくれる人といった期待感を持たせてくれる存在です。私は、漫画は「肯定するメディア」だと考えています。下世話な欲望も、高尚なことも、全て肯定してくれるのが漫画の良さだと思っています。
そういう意味では、生きづらさを感じている人、我慢をしている人を肯定してくれるのが、三星大陽ではないでしょうか。生き方を変えたいけれど踏み出せないキャラクターに対して、肯定して、愛情を持ってお尻をたたいてくれる。キャラクターを通して読者が潜在的に思っていることに、アクションを起こさせてくれる存在ですね。
――作品の中では渋沢栄一の言葉がよく出てきます。理想の経営のようなものを、渋沢栄一に見いだしているのでしょうか。
塚本: 三星大陽が、渋沢栄一に共感して、憧れている様子が描かれています。福田先生に渋沢栄一の発言や、成し遂げたことを読者に知ってもらいたいという考えもあると思います。また、作品には三星大陽の兄で、大企業の社長をしている三星大海というキャラクターが出てきます。大陽は渋沢栄一が大事にした中国の古典「論語」につながる性善説を、大海は「韓非子」の性悪説を基本的な考え方にしていて、立場は対象的です。でも、どっちが良くて、どっちが悪いという描き方はされていません。
スタートアップの描き方も同じです。福田先生は、起業の良さを伝えるためにサラリーマンは駄目だと表現するような、一方を上げるために一方を下げる描き方をしないように気を付けているとおっしゃっていました。働き方や生き方に多様性があっていいと伝えたいのだと思っています。
今後は今まで登場したキャラクター同士がつながって、大きなビジネスに発展していく展開も予定しています。単行本でまとめて読んでいただくのもうれしいですし、『ヤングジャンプ』やアプリ「ヤンジャン!」などでリアルタイムの連載を追ってもらい、「次どうなるんだろう!?」というワクワクを提供していきたいと考えています。
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