それ、本当にブラック企業? 日本社会に誤って広がる「ホワイト企業信仰」が迎える末路:働き方の「今」を知る(2/4 ページ)
「ブラック企業」というワードの一般化に伴い、あれもこれもブラックだと指弾されることも。筆者は、そんな風潮に警鐘を鳴らす。そもそも「いい会社」って何だろう。
例えば、ある企業が「ハードワークで離職率も高い」という点だけを採り上げて「ブラック企業だ」という意見があったとする。しかし、当該企業が求人募集段階で「当社はハードワークなので覚悟してください」と明示し、36協定を結んだ上で残業上限時間を守り、かつ残業代をキッチリ支払っていれば合法だ。さらには、「実績に応じて青天井の報酬が得られる」とか「濃密な経験を積めて独立できるため、あえてその厳しい環境を目指す」といったメリットが存在するケースもある。果たして、その会社はブラック企業といえるのだろうか。
「お金」「キャリア」「働く環境」「自由な時間」――仕事や人生において何を優先するのかによって、ある人にとっては理想的な企業が別の人にとっては超絶ブラックであったり、その逆もあったりすることだろう。判断基準としての「ブラック企業」はあくまで相対的なものなのだ。
実際、膨大な赤字を垂れ流し、平然と大量リストラをやっていても「大手有名企業」というだけで応募者が殺到する企業がある。一方、高収益で成長していても、「長時間労働でプレッシャーが厳しそう」というイメージから、ブラック企業だと認識され、忌避されている企業もある。
このように、「いい会社」と「ブラック企業」は表裏一体なところがあり、こちらを重視すればあちらが立たない、といったことが起こり得る。ここで具体的な事例を紹介しながら、「何をもって『いい会社』とするか」「どんな要素があれば『ブラック企業』なのか」「『ホワイト企業』に入社できたら全てハッピーなのか」について考えてみよう。
「いい会社」の定義もまたさまざまだが、ここでは簡略化して「その企業の商品やサービスのユーザーである顧客にとっていい企業」「その企業に投資をしている株主にとっていい企業」そして「働く従業員にとっていい企業」の3つに分けて考察する。
「顧客」「株主」にとって、いい会社とは?
まず、顧客にとっていい企業とは、どのようなものだろうか。筆者なりに考えると、「リーズナブル、高品質な商品、サービスを提供している」「対応が迅速で丁寧」「365日、24時間営業している」「多少の無理難題は聴き入れてくれる」というポイントが思い浮かぶ。
株主にとっていい企業であれば、まず当然「もうかっている」という要素が必要だろうし、「効率良く経営できている」「借金が少なく、財務体質が強固」「継続的に成長している」「差別化できる強みや技術がある」などが挙げられる。
例えば、ディスカウントストア「ドン・キホーテ」を運営するパン・パシフィックインターナショナルHDを例に見てみよう。
関連記事
- 「ブラック校則」で波紋 今の日本社会で、ツーブロックは本当に就職で不利なのか
「就職活動に影響する」とツーブロックを禁止する学校が話題に。本当に髪形程度で就職に不利になるのか。そんな社会でよいのか。 - 日本人は、自らブラックな労働環境を望んでいるといえなくもないワケ
長く続くコロナ禍。解雇などのニュースを目にすることも多いが、国際的に見ると日本は比較的低めに推移している。ただ、その代わりに失っているものも少なくないと筆者は指摘する。 - 20〜30代若手社員に人気、企業は戦々恐々 最近よく聞く「退職代行サービス」に潜む危険なワナとは
昨今よく見る退職代行サービスだが、本当に安全に退職できるのか。利用者増加の裏に潜むリスクを解説する。 - 【独自】ワタミ「ブラック企業に逆戻り」騒動 内部取材で明らかになった、衝撃のウラ話を暴露する
「ワタミの宅食」で起こった残業代未払い問題。それだけでなく資料改ざんやパワハラなど、「やっぱりワタミはまだブラックだったのか?」と思わせるような実情が告発された。本当にワタミはブラック企業へ回帰したのか。内部取材を敢行すると、思わぬ事情が見えてきた。 - 技能実習生は今も「低賃金・重労働」の担い手なのか? 「夕張メロン問題」から考える
夕張メロンの減産がニュースになり、その理由が「技能実習生不足」ということから大きな話題を呼んだ。「低賃金・重労働」を押し付けられ、過酷な事情を耳にすることも多い同制度だが、実情はどうなっているのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.