山口FG「CEO電撃解任」で見えた 地銀改革を阻む金融行政の「置き忘れ荷物」:勃発「山口の変」(3/4 ページ)
「山口の変」が勃発した。多角経営など、地銀改革を進める山口フィナンシャルグループで会長兼CEOが電撃解任された。改革の進む山口FGで何が起こったのか。背景には金融当局の失政も透けて見える。
むしろ、スキャンダラスな言い回しの怪文書的告発文が社内に出回り、役員間に事前根回しがありつつ、一部メディアで内部告発が表に出た――という至って恣意(しい)的かつ感情的な「吉村おろし」の動きからは、単純に今回の新規事業計画が解任に追い込んだとは思えません。
確かに吉村氏が早い段階で、新規事業計画をボード間で共有すべきであったという問題点はあったと思います。しかし、今回の「吉村おろし」においてそれはあくまで引き金であり、同氏がこれまで本業外事業を矢継ぎ早に打ってきた「地銀改革推進派の雄」という姿勢に対する社内的な反発が、この機に一気に噴き出したのではないのかと思えるのです。
山口FGに限らず、長年「お山の大将」として商売をしてきた多くの地銀は、銀行業の特徴でもある「事なかれ主義」に貫かれ、変革を嫌う保守的な体質になりがちです。その保守体質が、新たな時代の急激な改革進行にアレルギー反応を起こすということは大いに考えられることです。ましてや先に記したように、山口FGは多くの地銀が苦しい経営を強いられる状況下にあって業績的には至って順調であり、強い保守体質をして「うちがなぜ今、改革を進める必要があるのか」と、社内で吉村体制への反感が生まれても何の不思議もないでしょう。
山口FGでは、事の次第を調査する社内の調査委員会が立ち上げられたとのことですが、問題が内部告発に端を発しているだけに、本来は外部の第三者委員会を立ち上げ吉村氏の経営方針に対する社内的な批判や反発がどの程度あったのかについても、しっかりと調査し公表する必要があるでしょう。業務規制緩和などによって今後金融当局が求める地銀改革をスムーズに進ませるためにも、この点は本件調査の最重要ポイントであると思われます。
地銀の問題体質は政府の「過保護」も一因
多くの地銀において近年強く改革が求められつつも遅々として進まないのは、このような改革を嫌う至って保守的な体質が邪魔をしているのは想像に難くないところです。保守的な体質を作り上げた原因の一つは、既に申し述べた通り長年地域の「お山の大将」であり続けてきたという環境にあるでしょう。しかしそれ以上に忘れてならないのは、わが国の金融行政が長きにわたり「護送船団方式」といわれる過保護政策をとることで、弱い銀行も必要以上に守り続けてきたという、政策的要因も大きく関与しているということです。
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