山口FG「CEO電撃解任」で見えた 地銀改革を阻む金融行政の「置き忘れ荷物」:勃発「山口の変」(4/4 ページ)
「山口の変」が勃発した。多角経営など、地銀改革を進める山口フィナンシャルグループで会長兼CEOが電撃解任された。改革の進む山口FGで何が起こったのか。背景には金融当局の失政も透けて見える。
金融庁は過去、「箸の上げ下げまで口を出す」といわれてきた細かな通達行政、マニュアル行政を、銀行管理上の基本方針としてきました。しかし、業務の自由化や自己責任原則が金融機関のグローバルスタンダードとなっています。その中で、金融危機からの脱却時に定めた債権の分類管理方法を具体的に指導した「金融検査マニュアル」を象徴的に19年に廃止しました。監督官庁として銀行経営の監督はしつつも、各行の経営意思を尊重するという方向に転換し、金融機関の自主運営を原則とする方針へと急激な転換をしたわけで。これは見方によっては、金融業界が難しい時代を迎える中で、上手に逃げの手を打ったとも取れます。
一方で、20年前に金融当局主導の下、大手銀行の統合および整備が進み(みずほ銀行のシステムトラブルのような個別行の問題はあるものの)、揺るぎなき3メガバンク体制に移行したのに対して、地銀改革についてはリーマンショックなどの突発要因もあり、着手のタイミングを逸したのも事実です。国家主導の護送船団方式の悪弊による課題を積み残したまま地銀だけが置き去られ、20年前の保守的風土のままマニュアル主義を廃して、「後は勝手にやれ」と無責任な放り出しをしたとも映るのです。
地銀改革のボールは金融当局にある
山口FGの件は、吉村氏の問題とされる行動の真偽が明確にならない限りにおいて、騒動の解決には至らないわけですが、同氏が手掛けてきた地銀改革事業の数々までが、保守的風土に押しつぶされて全否定されることはあってはなりません。その意味では、金融当局は地銀改革を失速させないために、適宜この件への関与が必要でしょう。
同時に、金融当局は過去の行政管理により多くの地銀にはびこり改革の邪魔をしている保守的風土を一掃させる責任もあり、手付かずのまま終わった地銀改革を最終形に導く立ち場にもあるでしょう。この点から、自らの「置き忘れ荷物」の回収を図る、そしてこれ以上「置き忘れ荷物」を出さずにマニュアル行政を終わらせるための「地銀改革マニュアル」策定の必要性を強く感じる次第です。地銀改革のボールはいまだ個別行にはなく、政府金融庁の懐にある、とあらためて強く思わされる「山口の変」であります。
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