高級ブランドの分岐点 EC時代、攻めるグッチと守りのシャネル:石角友愛とめぐる、米国リテール最前線(2/4 ページ)
コロナ禍で、ECの市場が急速に拡大している。EC化には最も遠いと思われていたハイブランドファッションも、「EC化をどう捉えるか」の分岐点に立たされている。グッチ、ルイ・ヴィトン、シャネルなど、各ブランドの戦略の違いとは?
ECマーケットプレースからの脱却
ハイブランドファッションがデジタル販路を強化する際、今まで主な選択肢だったのが高級ブランドの商品を扱うECマーケットプレースでの出店でした。FarfetchやNet-a-Porterなどが主流です。
2020年には、アジア市場の拡大を狙うカルティエやヴァンクリーフ&アーペルを傘下に持つブランドハウスのリシュモンが、アリババとジョイントベンチャーを作り、Farfetchに11億ドル(1200億円以上)の投資を行いました。
その一方で、最近では、デジタルマーケットプレースから脱却する動きも目立っています。
例えば、グッチ、サンローラン、バレンシアガ、ボッテガ・ヴェネタなどを傘下に持つケリング・グループはNet-a-Porterでの出店を少しずつ減らし、最終的には内製化したD2CのECサイトでの販売に注力をすることを発表しています(もっとも、Net-a-Porterには前述のリシュモンが投資をしていることもあり、ライバルと距離を置くためとも言われています)。
ケリング・グループのチーフデジタルオフィサー兼チーフクライアントオフィサーのグレゴリー・ブッテ氏はマッキンゼーによる取材に以下のように答えています。
「なぜわれわれが独自のサイトを立ち上げるかというと、私たちのビジネスの4分の1、そしてお客さまとのやりとりの多くがオンラインで行われるようになったからこそ、その体験をコントロールすることにメリットがあると考えたからです。これにより、例えば、オンラインで購入した商品を店舗で受け取れたり、オンラインで店舗・商品を予約して試着ができたり、オンラインで購入した商品を店舗で返品できたりと、異なるチャネル間をシームレスに行き来できるような顧客体験を提供したいと考えています。このような橋を架けるには、顧客と販売チャネルの両サイドをコントロールするしかありません」
また、同氏は雑誌の取材で「デジタルは、流通チャネル、顧客にシームレスなオムニチャネルサービスを提供するためのプラットフォーム、ブランドイメージや認知度を高めるドライバー、パーソナライズされた方法で顧客と接するためのツールなど、さまざまな役割を同時に果たします。デジタルテクノロジー、データサイエンス、イノベーションは、あらゆるタッチポイントで顧客に最高の体験を提供する方法をもたらすのです」とも述べています。この言葉からも、今後は多角的なデジタル投資が必要になってくることが伺えます。
例えば、グッチが2020年にローンチした、「グッチライブ」というサービスは、「長距離営業」という取り組みの一環で、ECサイト上で買い物をするクライアントに対して、店舗にいる店員がモバイルやPCのビデオ機能を通して商品を見せてくれるものです。このような新しいオムニチャネルの施策の効果もあってか、グッチを傘下に持つケリング・グループの今期(第2四半期)の売上高は、約2倍に増加しました。
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