東海道新幹線「のぞみ」のビジネスパーソン向け「S Work車両」とは何か:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/7 ページ)
JR東海は10月1日より東海道・山陽新幹線「のぞみ」号の7号車を「S Work車両」とし、9月1日より販売を開始した。期間は2022年3月31日まで。ビジネスパーソン向けの指定席として、座席通話、PCの打鍵音などを相互に許容し合う車両となる。ビジネスパーソンへの販促策だが、背景には乗客の多様化がある。
背景に新幹線をとりまく環境の変化
東海道・山陽新幹線についてはどうか。もともとビジネス需要が旺盛な路線である。スマートEXもEX予約も多忙なビジネスパーソンを意識したサービスだ。そこに追加でビジネスサービスを提供する。しかもこちらは試行とはいえ、きちんと指定席料金を得て、このままサービスインできる環境を作った。この背景には乗客の多様化がある。
いままでは旺盛な移動需要があり、グリーン車と普通車を用意して、割引策など価格を操作すれば旅客を獲得できた。京都を経由する東海道新幹線は、もともと観光需要もあったけれども、施策によってさらに需要を掘り起こせる。インバウンドが旺盛だった時からこの傾向はあったとはいえ、やはり新幹線はビジネスの動脈という色彩が強かった。
移動需要が減少する中で、JR東海は積極的に旅行需要を喚起してきた。「ぷらっとのぞみ」「ずらし旅」のほか、ホテルを組み合わせたダイナミックパッケージについても、ビジネスホテルだけではなく観光型宿泊施設をそろえている。
グリーン車にも旅行客が増えてくると、ビジネスパーソンは逃げ場がない。「温度差の異なる旅行客と隣り合わせになりたくない」という不満も出てくる。そこで、ビジネスパーソンに特化したサービスが必要になった。
「同じ境遇の人々を集めて気兼ねなく過ごしてもらいたい」という主旨は、子ども連れ専用の「ファミリー車両」に通じる。ただし「ファミリー車両」は期間・列車限定のサービスで、旅行会社「ジェイアール東海ツアーズ」の旅行商品だった。このノウハウをビジネス向けに仕立て直すと、スマートEXとEX予約と親和性が高くなる。
旅行客に力を入れる一方で、ビジネスサービスを拡充してバランスを取っている。しかもすべての「のぞみ」に用意した。強いメッセージ性を放った。
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