東海道新幹線「のぞみ」のビジネスパーソン向け「S Work車両」とは何か:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(7/7 ページ)
JR東海は10月1日より東海道・山陽新幹線「のぞみ」号の7号車を「S Work車両」とし、9月1日より販売を開始した。期間は2022年3月31日まで。ビジネスパーソン向けの指定席として、座席通話、PCの打鍵音などを相互に許容し合う車両となる。ビジネスパーソンへの販促策だが、背景には乗客の多様化がある。
移動時間の長さが利点になる?
そして前述のJR東日本の事例でも触れたように「移動時間そのものが付加価値」になる。飛行機に乗ると細切れの時間ができて集中できない。新幹線なら集中する時間ができる。ビジネスパーソンにとって、移動時間を短縮するか、有意義に使うかという選択肢が生まれた。
そうなると「S Work車両」は「こだま」のほうがふさわしいかもしれない。筆者も「のぞみ」ではなく、あえて「こだま」を選ぶ場合がある。車内で作業をしたいだけではなく、「のぞみ」では寝る暇がない。「こだま」なら眠る時間もある。
リニア中央新幹線の新型試作車両の座席にはUSBコンセントが付いている。これについてある記者が「AC電源がないとPCを使えない」と声を上げた。27年の開業時にはUSB給電が普及するだろうし、PCのバッテリーも十分持つ。品川〜名古屋間は約40分。そんなに働きたいのかと思うけれども、やはり選択肢を作ることは重要だ。
もはや新幹線は「普通車とグリーン車」だけでは乗客の多様な要求に対応できない。ファミリー車両、「S Work車両」は、新幹線に新たな価値を与える施策といえる。サービスが完成されたと思われた新幹線でも新しいサービスができる。きっとほかの分野でも、新たに掘り起こせる需要があるかもしれない。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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