2025年の大阪・関西万博で、鉄道の路線図はどうなるのか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/6 ページ)
2025年に大阪、夢洲で「2025年大阪・関西万博」が開催される。政府は主要公共交通機関に大阪メトロ中央線を位置付けた。このほか会場へのアクセスには船とバス、さらに具体化していない鉄道ルートが3つ、近畿日本鉄道の構想もある。また会場内の交通には、3種類のモビリティが計画されている。
近畿日本鉄道が「走るパビリオン」を作るかも
夢洲の鉄道北ルートは、IRの建設決定あるいは夢洲、舞洲の発展まで様子見である。したがって万博に関しては、大阪メトロ中央線が唯一の鉄道アクセスとなる。ところがここに伏兵が現れそうだ。近畿日本鉄道である。近鉄路線網の京都、奈良、伊勢、名古屋から夢洲へ近鉄特急を走らせる構想がある。ただし大阪市湾岸部に近鉄路線はないし、近鉄路線の延伸計画もない。どうするかというと大阪メトロ中央線に乗り入れる。
もともと大阪メトロ中央線と近鉄けいはんな線は相互直通運転を実施している。生駒駅で近鉄奈良線と並んでいる。だからすぐにでも直通運転できそうだったが、できなかった。理由は、電化方式が異なるからだ。近鉄奈良線など近鉄路線の多くは架線集電式だ。しかしけいはんな線は第三軌条である。電車に電気を届ける仕組みが違う。
架線集電式は、電車の屋根上のパンタグラフと架線を接触させて電気を取り込む。第三軌条方式は走行用線路の隣に電気を流すレール(第三軌条)を敷設して、車輪のそばに集電靴という装置を取り付け、第三軌条に接触させて電気を取り込む。大阪メトロ中央線はトンネル断面を小さくして建設コストを節約するため、第三軌条方式を採用した。その路線に直通するために、近鉄は中央線に合わせた路線を作った。
しかし、近鉄は新たな技術でけいはんな線と奈良線の直通運転を実現しようとしている。簡単にいえば、パンタグラフと集電靴の両方を搭載し、電車のサイズの小さい方に合わせた大きさの電車を作る。そして生駒駅の線路をつなぐ。既存の技術で対応できる。
ところがこれが簡単ではない。集電靴は車輪の外側に張り出しているため、架線集電区間では線路脇の構造物に接触してしまう。そこで近鉄が考えた方法は、集電靴を使わない時は引っ込めてしまおう、という折りたたみ機構だ。この仕組みについて、近鉄は20年1月29日に特許を出願していたことが、21年8月10日に特許情報が公開されて明らかになった。
パンタグラフと集電靴の両方を装備した車両は過去にもあった。信越本線の碓氷峠、横川〜軽井沢間で使用された電気機関車と、イギリスとフランスなどをドーバー海峡トンネル経由で結ぶ特急「ユーロスター」だ。どちらも現在は使われていない。
けいはんな線と奈良線が直通できれば、奈良線経由で京都、伊勢、橿原(吉野方面連絡)、名古屋までも直通できる。25年までに実用化できれば、この珍しい機構も新技術のひとつ。人目に付くところにはないし、折りたたみの場面も線路に近づかないと見られない。しかし、日本の鉄道技術の高さを広めるチャンスだ。新幹線ほど派手ではないけれど、「走るパビリオン」として認めてあげたい。
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