トヨタグループの「アイシン」が美容商品を手掛けた理由 都内有名サロン6店舗とコラボ:待ち時間を「価値ある時間」へ(2/2 ページ)
大手自動車部品メーカーのアイシンが、美容業界に身を乗り出そうとしている。同社は空気中の水分子を目に見えないほど小さな水粒子に変換し、髪の内部と地肌に届ける装置「Hydraid(ハイドレイド)」を開発した。都内有名サロン6店舗と協働し、実証実験を兼ねた施術体験機会を3月から用意する。
アイシンが美容商品を手掛けた理由
PEEK-A-BOO社長の川島修身さんもこう振り返る。
「カラーリングが頭皮にしみやすいお客さまに『Hydraid』を当てて施術をしたら『今回しみなかった』と言っていただくことがありました。髪の毛だけでなく地肌でも効果を実感できたことが大きいです。地肌に対しても効果があるため、今まで施術を受けたくても受けにくかった方にも提案できるようになったのは大きいですね。『Hydraid』だけを受けに来店する方もいるため、来店動機の一つにもつながっています」
なぜトヨタグループの自動車部品メーカーであるアイシンが、美容業界に身を乗り出したのか。実は部品メーカーではない、アイシンの知られざる顔があった。「Hydraid」の開発を担当した、アイシンでイノベーションセンター AIRビジネス推進室 室長を務める井上慎介さんはこう説明する。
「実はアイシンには、1966年から50年以上にわたりベッド事業を手掛けていた歴史もあるのです。ところが、2020年3月をもってベッド事業は撤退しました。ベッド事業のかたわら、質の高い睡眠のためには、湿度の調整が不可欠です。これを怠ると、起きたときに喉や肌が乾燥していたり、鼻づまりの原因にもなったりしてしまいます」
井上さんもベッド事業の開発を長年担当していて、「質の高い睡眠」確保のために、調湿機の研究開発も続けていたという。その過程で、目を付けたのが空気中の水分子を水粒子に変換して放出する技術だった。
「SDGsをはじめとする環境的持続可能性の面でも、この技術は有用だと考えました。空気中の水分子が供給源ですから、電気さえあれば世界中どこでも使えるのが特徴です。ただ、問題点が一つだけあります……それは、目に見えない技術であるため、その効果を信じていただきにくい点です」(井上さん)
「Hydraid」からは蒸気の1000分の1という数ナノメートルサイズの水粒子から放出されているものの、見ただけでは何が出ているのか分からない。加えて音も静かだ。作動している状態で放出口に手をかざすと、ぬるま湯が出ているかのような温かみと湿度を感じられ、そこではじめて機械が動いていることを実感できる。
「出る水粒子の温度を温かく設定しているのも、利用者に使用感を実感してもらいたいというのも理由の一つとしてあります。一番この効果をお客さまに体感してもらえるのが美容業界だと思い、まずは有名サロンの方々との協業を始めました」(井上さん)
「Hydraid」の水粒子技術だけでなく、目に見えない技術は長年の実績があっても、なかなか信用しづらい問題がある。例えばパナソニックが誇る、結露させて集めた空気中の水分に高電圧を加えて生成されるイオン「ナノイー」や、シャープ独自の空気浄化技術「プラズマクラスター」も、使ったことがない人にとってはいまいちピンとこないものだろう。
今後の展開はどうか。井上さんはこう話す。
「髪だけでなく、特に肌は問題を抱える人が美容に限らず多くいると思いますので、肌の領域の実証実験は今後も進めていきたいところですね。今のところ美容業界でテストしていますが、医療や工業や農業分野など、多様な領域で活用できる技術になると確信しています。この技術をどのように今後展開できるか、まだ探っている段階です」
アイシンのイノベーションセンターは「50年、100年先の新たな事業を作る」ことをミッションとしているという。「Hydraid」も、小型化して家庭で使えるようになれば、「ナノイー」「プラズマクラスター」と同様、家庭でも広く普及する日が来るのかもしれない。
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