コロナワクチンのモデルナ、日本法人の女性トップ「日本でメッセンジャーRNAワクチンを作れるようにしたい」:モデルナは救世主となるか【後編】(2/2 ページ)
2010年に米国で創業したモデルナは、コロナワクチンの普及によって一躍有名になった。21年11月に日本法人モデルナ・ジャパンのトップに着任した鈴木蘭美社長(医学博士)にインタビュー。後編では鈴木社長のキャリアやモデルナの文化などを聞く。
個別にワクチンを作れる工場
――鈴木社長は今までさまざまな医療のグローバルカンパニーを渡り歩いてきたプロ経営者ですから、いろいろな工場を見てきたと思います。モデルナは他社とどう異なっているのですか?
ほぼ全てがガラス張りで、工程が見えるようになっていました。個別化されたガンのワクチンの製造では、20畳ほどのエリアにさまざまな機械が置かれていて、1人の患者さんの検体の解析からその人のためだけのワクチン製造まで、このエリアで完結できるようになっています。
通常の工場は、流れ作業で作っていきます。一方モデルナではユニット化されたデザインとなっており、検体の取り間違いなどを防いでいることが興味深かったです。
――鈴木社長は研究者であり、事業開発の経験が豊富で、そして経営者でもあります。いろいろな分野を見てきた経験を踏まえて日本という市場はどんなポテンシャルがあるのでしょうか?
計り知れない市場だと考えています。国民皆保険がある国ですから。例えば薬価ですが、欧州では国別・地域別、米国では顧客別に定まります。場合によっては薬価を定めるまでに長い時間がかかり、承認されても薬価が折り合わなくて患者さんが新薬にアクセスできないなどの問題が生じています。一方日本では国が決めていますから、1つの薬が承認されると、1つの薬価ですぐにアクセスを担保できます。市場規模も世界トップクラスです。
日本は、治験の仕組は比較的しっかりしていると思います。それに加えて、「リアルワールドエビデンスRWE(実際の医療現場などにおける証拠)」のシステムが構築されれば、より透明性高く的確な判断を継続的にくだすことができます。私達の国民皆保険を最大限生かせると思います。
例えば今この部屋にいる5人は、それぞれワクチンを打った時期も種類も異なります。体質や病歴もさまざまです。
その後どうなっていくかを、3年間ずっと追っていくとします。ブレークスルー感染したのか、重症化したのか、後遺症はどうなのか。1人のデータは解析対象としてはそれほど意味がないかもしれませんが、これが10人、1000人、10万人と集まれば、いろんな知見が必ず見えてきます。大規模の長期データに基づけば、ワクチンについてもより納得できる人が増えるはずです。
日本でも原薬を作れるようにしたい
――ワクチンでは、塩野義製薬などが開発を進めています。日本人は「メイド・イン・ジャパン」を好む傾向にあります。今後、どうやって差別化などを図っていきたいと思っていますか?
パンデミックに対して、ある意味私達は運命共同体です。敵は他社ではなく病です。他社のワクチンが世の中に出ていくことは素晴らしいことですし、安定供給の面からも、国内に複数のオプションがあったほうがいいと思っています。
――ワクチンはどのように製造されているのですか。
原薬はスイスで作っていまして、製剤はスペインにある工場で作られ、武田薬品工業の皆さんが製販を担当してくださっています。
私は、ナショナルセキュリティの観点からmRNAワクチンの国産は重要だと思っています。本当に必要なときは、どの国も自国への供給を第一に考えます。だから日本でも、原薬から作れるようにしたいです。なおモデルナとしては、すでにカナダとオーストラリアで原薬工場を立ち上げると発表しています。
――最後に今後について意気込みを。
コロナの状況を一刻も早く収束させるために努力します。そして沢山の人々と協力しながら、mRNAの力を最大限発揮できるよう励みます。
SARSとの最大の違いはスピード
以上が鈴木社長へのインタビュー内容だ。筆者は2003年、香港で発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)を経験しており、新型コロナは私にとって2度目の感染症の流行だ。こんなありがたくない経験をした日本人メディア関係者は多くないと思うが、19年前とは全てにおいて隔世の感がある。
最大の違いはスピードだ。モデルナはまさに今を象徴する企業で、高速化したインターネットとAIを駆使してあっという間にワクチンを作り上げた。この製薬業界の“Z世代”ともいえるモデルナは、日本でも存在感を増していきそうだ。
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