「対面重視」の美容業界に訪れた“DXの波” コーセーの「触れない接客」に高評価が付く理由:ミルボンは美容室の解題に取り組む(4/4 ページ)
店頭での接客や体験を重視してきた美容業界。しかし特にコロナ禍以降、企業側にもDXの波が訪れた。ありきの美容業界で進むDXとはどういったものか。
美容室の未来を変える「スマートサロン戦略」とは?
21年10月には「ミルボンiD」とPOSシステムの連携を開始。顧客データと売り上げデータを一元管理できるようにした。
「これまで店舗内で販売まで完結していたため、美容師が全ての責任を持つことができた。しかしオンラインでの購入までは追いにくい。POSシステムで購入履歴を手軽に見れるようになれば、アフターケアも含めて一顧客に責任を持てる」(坂下氏)。
このようにデジタルで美容室とユーザーをつなぐミルボンのDXで、次に掲げるのが「スマートサロン戦略」だ。これはミルボンが提供する「ミルボンiD」や美容師学習向けサイト「エデュケーションiD」と美容師のリアルサービスを融合するもので、ミルボンがデジタル面で既存の美容室サポートするとしている。坂下氏は「これまであった美容室の機能を拡張するものだ」と語る。
ミルボンは美容師の知見、知識を生かした販売活動を「知販(ちはん)」と呼ぶ。「スマートサロン」ではこの知販をデジタルで展開し、サロンのあり方を広げていく。「例えば、その日受けた施術内容や美容師の知見をユーザー自身がオンラインで見ることができ、カウンセリング内容をもとに自由に買い物するなど、美容室とデジタルをシームレスにつなぐこともできるだろう」(坂下氏)。
まずは商業エリアにサロンと協業したフラッグシップモデルを作り、ゆくゆくは日本全国100都市、500〜1000店に拡大する計画だ。また「ミルボンiD」の目標は会員数100万人。
「サロンは平均して月に500〜600人の来店があり、毎月来る顧客だけでないことを考えると、店舗の総顧客は1500人程度。『オージュア』の導入サロンは約5000店ある。まだまだ会員数を伸ばす余地がある」と坂下氏は意気込む。
コーセー、ミルボンともに業態は異なれど、全く新しい価値を作り出すDXではなく、人を介する体験や情報発信という強みをデジタルで拡張している。強みが人である以上、アップデートしていくのはシステム以上に人の個性や知見といった“アナログ”な部分だ。今後のDXにおいてはシステム構築だけでなく、こうした魅力の作り方も鍵となるだろう。
著者プロフィール
臼井杏奈(うすい あんな/ライター、編集者)
青山学院大学文学部卒業。産経新聞社の記者職を経て、ビューティー業界紙WWD BEAUTYで記者・編集職。2020年4月からフリーランス。中国や欧米などの海外市場やビューティーテック、スタートアップなどを中心に美容・ファッション関連の取材執筆を行う。
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