オンキヨー破産の反響に“大きな誤解” オーディオは「ノスタルジックなビジネスではない」と言えるワケ:本田雅一の時事想々(3/4 ページ)
オンキヨーが、5月13日に自己破産を発表した。この件に関連して、オンキヨーをかつてのオーディオブームに乗じ、今は勢いを失った日本ブランドの代表として“ノスタルジックな論調”で語る言論が多かった。しかし、筆者はオンキヨーは「伝統的なハイエンドブランド」という立ち位置ではなく、またオーディオビジネスの本質をつかんだブランドは今も求められていると指摘する。オーディオ業界で、何が起きているのか。
絶対に消えない”音の質”へのニーズ ラックスマン、サエクに学ぶ
製品の“どのような部分”に消費者が反応するかは、時代によって変化がある。しかし、音の質を追求していれば、事業規模が小さくなっても事業ニーズはゼロにはならない。
例えば、筆者が学生時代、小遣い稼ぎにキット製品の委託組み立てをしていたラックスマンは1925年創業という、業界でも最も古いメーカーだ。
現在はIAGという台湾系中国人オーナーが所有するオーディオブランドのホールディングカンパニー傘下だが、一方で独立したブランド、事業体としての体制を維持している。主な出荷市場は日本だが、米国・欧州でもきちんと売れ、規模は小さいながらもしっかり利益も出している。
創業から100年近く事業継続できてきた背景は何かといえば、ラックスマンには“音質追求”と顧客との強いエンゲージメントしかない。言い換えれば、それさえしっかりしていればブランドとして失われないという証左ではないだろうか。
一世を風靡(ふうび)しながら、はかなく散っていったサンスイやアカイといったブランドもあるが、ラックスマンに限らず、音質に向き合ってきた伝統的なオーディオメーカーは生き残り、オーディオメーカーとしての役目を果たし続けている。
そして時代の変化によって、本質を追求してきたブランドが再びその輝きを取り戻すこともある。
昨今、ハイエンドのオーディオ業界はアナログレコードによって活性化されていた面も大きい。決して小さな市場ではないことは、パナソニックのオーディオブランドであるテクニクスが、アナログターンテーブルに力を入れているところからも分かるのではないだろうか。
結局のところ音というのはアナログなので、アナログ記録・再生を突き詰めた方が心地よい音楽が楽しめるのがその理由だが、一方でアナログであるが故に実に繊細な面がある。
サエクというブランドは、アナログレコードを再生するための高音質トーンアームで知られたメーカーだった。職人が手仕上げしていたダブルナイフエッジ構造のアームは生産性が低く継続不能に。同社はメンテナンスのための職人を確保しつつ、主に高品質ケーブルのメーカーに転じて事業を継続していた。
しかし世界的なアナログブームと、高精度な金属加工技術を駆使することで、トーンアーム1台で130万9000円という価格設定ながら、2019年に製品として復活することができた。これも“本質”を追求してきたからに他ならない。
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