オンキヨー破産の反響に“大きな誤解” オーディオは「ノスタルジックなビジネスではない」と言えるワケ:本田雅一の時事想々(4/4 ページ)
オンキヨーが、5月13日に自己破産を発表した。この件に関連して、オンキヨーをかつてのオーディオブームに乗じ、今は勢いを失った日本ブランドの代表として“ノスタルジックな論調”で語る言論が多かった。しかし、筆者はオンキヨーは「伝統的なハイエンドブランド」という立ち位置ではなく、またオーディオビジネスの本質をつかんだブランドは今も求められていると指摘する。オーディオ業界で、何が起きているのか。
その“本質”をどう生かすか オーディオテクニカに学ぶ挑戦
もっとも、オーディオの本質は音質にあるのだから、ジタバタせずにじっと耐えるべきなどと言うつもりはもちろんない。サエクの事例は彼らが40年前の価値を現在も引き継ぎ、メンテナンスを切らさずに来たからこそ製品として復活できたとも言えるが、一方で時代の巡り合わせでもあった。
しかし、オーディオメーカーとしての足場をしっかりと持ちながらも、時代に合った変貌を遂げてきたブランドも少なくない。
オーディオテクニカはオーディオ製品の中でも、得意分野を絞り込むことで、そのブランド価値を維持してきたメーカーだ。
シニアのオーディオファンはコストパフォーマンスの良いアナログプレーヤー向けカートリッジのブランドとして、昔懐かしいAT-150EGなどの製品を思い出す人もいるだろう。
現在はアナログディスクブームもあって、より高価格のカートリッジやアナログディスク関連製品も販売しているが、主軸となっているのはカートリッジ売上減少後に進出したヘッドフォンだ。ケーブル接続のヘッドフォンとしては、常にトップメーカーであり続けている。
快適な装着感を目指して独自のメカ構造を採用したり、業界に先駆けてUSB端子にダイレクト接続可能な製品を出したり、高級イヤホン市場が花開き始めと力を入れた製品をラインアップするなど、音質というオーディオ製品に求められる本質部分と向き合いながらも、きめ細かく市場ニーズにアジャストしてきた。
1962年創業という老舗らしく、ヘッドフォン、イヤホンの開発者に取材すると、そのこだわりに驚かされるが、市場へのアジャスト能力の高さが60年続いてきた理由でもあるのだろう。
そんなオーディオテクニカは60周年の今年、AUTEC CAMPというアウトドア向けオーディオブランドを立ち上げるという(関連記事)。AUTECといえば、同社の業務用製品のブランドなのだが、こちらはコンシューマー向けブランドだ。
バッテリー技術の進歩やワイヤレススピーカーのトレンド、コロナ禍でのアウトドアブームなどもあり、アウトドア向けオーディオ製品のニーズは高まっている。前回のコラムで取り上げた米ソノスが昨年、SONOS Roamという小型のアウトドア向けスピーカーをヒットさせたことは記憶に新しい。
技術トレンドと市場ニーズを招致した上で、オーディオメーカーとしての本質を失わない。そんなところが、彼らの強みと言えるだろう。
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