「子育てと仕事の板挟み」だった隠れイクメンの末路──30代男性が苦しむ元凶:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/5 ページ)
若い世代では共働き世帯が多く、男性も家事や育児をするのが「当たり前」だが、上司にとっては「当たり前ではない」。そんな板挟みで、苦しむ30代男性が少なくない。なぜ、このような事態が起きるのか。当事者のインタビューを紹介しながら、「ちっとも変わらない」男性の働き方について解説する。
「子育で大変なのは、女性だけじゃないんですよね。僕みたいに妻と分担するのが当たり前だと思っている人間は、わざわざ『僕、イクメンです』なんて周りに言わないしね。ひょっとしたら女性の方が周りに気遣ってもらえる分、両立しやすいかもしれませんね」
このように話す鈴木さんが、“イクメン”だったのは今から20年以上前、1990年代後半です。
当時、既に働く女性は珍しくありませんでした。でも、イクメンなんて言葉も、女性活躍なんてフレーズもなし。「育児介護休業法」が制定されたのは91年ですし、男性の育休取得率が1%を超えたのは2007年です。「いい意味でも悪い意味でも目立つ」という鈴木さんの言葉は、彼が上司だけではなく、同僚たちの“まなざし”に苦しんだと解釈できます。
そんな状況で鈴木さんは、自分の陰口を言う人を「仕事で見返してやる」とばかりに、 昼食も取らずにデスクに向かい続けました。 そして、子どもが小学校6年生になった時、彼のサラリーマン人生を大きく左右する出来事が起こります。なんと、地方転勤の辞令が出てしまったのです。
「反抗期を迎えた子どもを残して転勤するのは難しかったので、会社に降格を申し出ました。当時は転勤を固辞するなんて許されなかったので、仕方がなかった」
会社が下す人事に“ノー”という答えが用意されていない時代の「降格志願」は、いわば「職場放棄」です。その後、鈴木さんは管理職試験で3年連続落とされ、子会社に転籍を命じられました。
鈴木さんのケースから分かる通り、人知れず育児にいそしみ、仕事との両立に苦労しているのは女性だけではありません。男性は少数であるが故に、人に助けを求めること、自ら公言することもない。
つまり「今、一番つらいのは30代の男性では?」(冒頭のTweet)という問いかけの状況は、「昔から」起こっていたことでした。
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