「子育てと仕事の板挟み」だった隠れイクメンの末路──30代男性が苦しむ元凶:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/5 ページ)
若い世代では共働き世帯が多く、男性も家事や育児をするのが「当たり前」だが、上司にとっては「当たり前ではない」。そんな板挟みで、苦しむ30代男性が少なくない。なぜ、このような事態が起きるのか。当事者のインタビューを紹介しながら、「ちっとも変わらない」男性の働き方について解説する。
ケア労働を軽視する日本
一般に「労働」とは有償労働を指すと理解されています。しかし、国を成長させ、社会を支え、人を守る労働は、「市場労働とケア労働」の2つと言えます。
ケアという言葉は「ケアの論理」に代表される米国の倫理学者・心理学者のキャロル・ギリガンの道徳理論に由来しますが、ここでの「ケア労働」とは、単純に私たち社会が成立するうえでの無償の労働です。
生きていくためには「お金」が必要なので、私たちは「市場労働」をする。生きていくためにはご飯を作って食べ、部屋を掃除する。子どもや高齢者にはその力がないので、他者(親や子など)がご飯を作ったり、掃除をしたりといった「ケア労働」をする。
男であるとか女だとかとは関係なく、どちらも、私たちが生きていくためには必要不可欠な労働であることを、否定する人はいないはずです。
なのに、日本は「ケア労働」を軽視し続けています。
「誰でもできる仕事だから保育士の給料は低い」と暴言を吐いた識者がいましたが、これも「国を成長させ、社会を支えるのは市場労働だけ」という理屈から出るコメントといえます。
例えば、日本と同じように性役割が社会に深く根付いていたドイツでは、徹底的に労働時間を管理し、順守させることで男性でもケア労働にアクセスする権利を保護してきました。平たくいえば「会社で仕事ばっかりやってないで、さっさと家へ帰って家事とか育児しないと一人前じゃないぞ!」という空気が熟成されているのです。
なお、ドイツ社会に日本と同じような「性役割」が根付いていることに違和感を覚える人がいるかもしれません。ドイツは今でこそ「共働き先進国」ですが、元来、女性の母親としての役割を強調する組合主義的福祉国家を代表する国で、実際ドイツの女性は「時短勤務」している割合が高く、時短ワークしている女性のEU平均は約3割なのに対し、ドイツは約6割と圧倒的に多いのです。
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