トヨタが仕掛ける 次世代パワートレインの「全方位」戦略:カーボンニュートラルを見据え(4/5 ページ)
トヨタ自動車は現在、プリウスに代表されるハイブリッド車などを販売している。これから本格化するカーボンニュートラル(CN)の時代を見据え、BEVのみならず、水素エンジン車などを全方位で準備している。CNという山の登り方はさまざまだ。
小さな変化がストレスになる
自動車ユーザーの中には、充電ステーションが十分に普及していないという理由で買うのをためらう消費者もいる。ただ、エネルギー会社側にとっても、かなりの補助金が出ないともうかるビジネスにならない事情があると聞く。そう考えると、自動車会社側としては自分たちの販売店に充電器を設置するといった「できるところから始める」のが現実的な対応だろう。
個人的に普及のネックになっていると感じるのは、利便性の問題だ。道中でやむを得ず充電するとなったときに、急速充電をできたとしても30分ほど待たなければいけない。例えば、高速道路のパーキングエリアの施設はかなり充実していて、それなりに時間をつぶせる。
だが、ガソリン給油の約5分間に慣れてしまった消費者は、どこか受け入れがたいのが本音だろう。5分で充電できるとなれば一気に普及するだろうが。だがリチウムイオン電池、全固体電池をふくめて、将来的にさらなる電池の技術革新がないと現時点では難しい。
結局、EVに変えたのはいいがICEのように使えなければ、どんな小さなことでもユーザーにとってストレスを生む。「地球温暖化のために充電時間など少々の不便は我慢しろ」といわれてしまえば、文句は言えない。だがそのポイントが購入のネックになっていることは、上述のようにICEが今でも売れている状況からも分かるだろう。
最近の円安の影響はどうなのか。トヨタは1ドルの変動によって約450億円の影響があるようだ。海外から高い資材や部品を買わないと自動車を作れないという話になった時、中長期的に見れば、海外メーカーとの競争という意味で、収益は厳しくなってくるだろう。急激な円安はかえって首を絞めることになりそうだ。
トヨタは「適地適車」を掲げ、現地工場で自動車を生産しているため、円安は追い風のようにも思える。ただ、日本の雇用を守らなければならない面もある。また、豊田章男社長は2020年3月期の決算説明会の中で「国内生産300万台体制」を死守することの意義を説明していた。
「これまで、日本がマザー工場となって、トヨタのグローバル生産を支えてまいりました。国内生産体制はグローバルトヨタの“基盤”であると言えます。トヨタだけを守れば良いのではなく、そこにつらなる膨大なサプライチェーンと、そこで働く人たちの雇用を守り、日本の自動車産業の要素技術と、それを支える技能をもつ人財を守り抜くことでもあったと考えております」(豊田社長)
“モノづくりを日本に残す”ことへの拘りを、豊田社長は訴え続けてきた。トヨタ車は日本で150万台しか売れていないにもかかわらず、300万台の生産をしている。リーマンショックや東日本大震災の当時も、国内生産に強くこだわってきた。
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