「にじさんじ」時価総額フジテレビ超え……26歳代表資産は1000億円超、30人以上の従業員も億万長者へ:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/4 ページ)
ANYCOLORを弱冠26歳で上場に導いた創業者である田角陸氏の保有株式価値は1246億円。同社の大株主リストには30人以上の従業員が名を連ねており、最も少ない株数である1万5000株の割り当てでも時価にして1億3500万円の価値がある。したがって、ANYCOLORでは30人以上の従業員が億万長者に変身したことになる。
ストックオプションや持株会は「割合」が重要
夢の部分がフィーチャーされがちなストックオプションや従業員持株制度であるが、やはり注意すべき点はいくつかある。
仮にスタートアップ企業からスカウトされるような場面で「ストックオプションを付与する」と持ちかけられたとしても、詳細な条件を確認しておかなければ、本人にとってあまりメリットのないものにもなり得るのだ。
まず確認すべきは付与される「株数」ではなく「割合」である。例えば、あなたが入社すると「100万株を付与する」会社と、「50株を付与する」会社がある場合、一見前者の方がメリットが大きそうにもみえる。しかし、株数はストックオプションにおける経済的利益と何の関係もない。
例えば、両者の時価総額がどちらも1億円であるとして、前者の発行済み株式総数が1億株の場合、100万株の価値は100万円だ。一方で、後者の発行済み株式総数が100株であれば、50株の価値は5000万円になる。
つまり、確認すべきは株式の「数」ではなく「割合」だ。入社時やボーナスで付与される株式の条件を確認する場合は、「何%程度か」と比率を必ず確認するようにしよう。
「金の手錠」のワナ
ストックオプションや持株会の制度について、悪しき風習が残っている部分がこの「行使・失効の条件」にある。
例えば、海外ではストックオプションを保有している従業員が退職することになった場合、ある程度は保有分が没収されてしまうものの、在籍期間や本人の功績に応じて幾ばくかの数量を保有した状態で退職できるような制度を取っていることが多い。
しかし、日本ではストックオプションが行使可能になる前に退職すると、ただちにストックオプションの全権利を喪失するという座組みとなっているのが一般的だ。ときには、創業初期に会社のキーマンであった人物が何らかの事情で上場前に退職せざるを得ない状況に追いやられた場合、それまでの会社の成長が本人に一銭も還元されないというケースも発生する。
このような制度設計は、従業員本人だけでなく会社にとっても悪影響が生じ得る。それは「金の手錠」と呼ばれる現象が職場に蔓延(まんえん)してしまうことだ。
「金の手錠」とは、ストックオプションなどの株式報酬を保有している従業員が、退職による権利失効を恐れて、権利行使可能になるまで会社に居座らざるを得ないという現象だ。そのような社員は会社におけるモチベーションやパフォーマンスが低くなってしまい、本人にとっても新たなチャレンジができるまでの時間が無駄になってしまうというルーズ・ルーズの展開にもなり得る。
スタートアップが株式報酬を採用する大きな理由の1つに、「給与の後払い」というものがある。要は、大手企業から転職したり、本来であれば大手に新卒で入社できる社員にとって、零細で基本給も低いスタートアップに入るメリットはほとんどない。しかし、このギャップを埋めるために、現金の支出が発生しない株式報酬で魅力的な条件を付与したり、ボーナスを現金支給する代わりに株式で付与するといった対応がとられるのだ。
そうすると、入社時は安い給与で働いてもらっていたにもかかわらず、やめる時にストックオプションを没収することは「後払い給与の踏み倒し」といっても過言ではない。ボーナスを現金の代わりに株式で付与したのであれば、ボーナスを剥奪するわけであることから、「退職に対する罰金」にもなり得る。
退職にあたって罰金を課すことは労働基準法上は違法だ。しかし、ストックオプションの性質がよく定まってない現状、このような制度設計は問題になりにくいのが現状だ。
ちなみに、日本におけるストックオプションは相続の対象にもならない場合が多い。つまり、ストックオプションを保有して本人が亡くなってしまった場合も家族や子供にはお金を遺せないのである。
その結果、いわゆる上場を果たした会社で、ロックアップ期間を過ぎると従業員が株式を売却して大量に離職してしまうといった現象が悩みの種になる。
日本ではしきりに「大企業」の非効率性などが槍玉に挙げられやすいが、日本のスタートアップを取り巻く株式報酬にかかる環境も、だいぶガラパゴス化しており、取り組むべき課題がいくつもあるというわけだ。
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