ペーパーレス化が進んでいるのに、なぜプリンタとインクの売り上げが伸びた? セイコーエプソン社長に聞いた:ウサイン・ボルトをPRに起用(3/5 ページ)
コロナ禍で在宅ワークにシフトしたことによって、家庭用プリンタとインク需要が逆に伸びて好業績を挙げているのがセイコーエプソンだ。社長就任3年目となるセイコーエプソンの小川恭範社長に狙いを聞いた。
印刷の産業構造を変える技術
――ロボットも伸びているようですが、どういうタイプが増えているのでしょうか。
強いのは水平に動くスカラロボットといって、電子、電気、ソーラーパネル部品の組み立てラインに多く使われています。中国が主な市場になっています。
――得意としている微小領域に精細な加工を施す微細加工技術(マイクロピエゾ)の活用はどのような分野で期待できますか。
布地へ印刷する捺染(なっせん)という技術開発に力を入れていて、伸ばしているところです。繊維メーカーや印刷業者なども加わってイタリアで始まったもので、高級ブランドのシルクのドレスシャツやネクタイ、Tシャツなどへの印刷までいろいろなものがあります。
これまでのアナログ印刷でしていたのを、マイクロピエゾのインクジェットプリンタでデジタル印刷すると無駄な工程がなくなります。布地のロスが減り作業環境も汚れが少なく、捺染は期待が持てます。
印刷した後処理で洗う時に使う水の消費も少ないので、印刷の産業構造を変える可能性があります。
――現代アートの分野にも応用しているようですね。
アートは大量に作るものではありません。われわれの技術を使えばオンデマンドでその場ですぐに印刷できます。
これまでの衣類の大量消費、大量廃棄という時代から廃棄物を少なくしようという動きになってきています。この動きから現代アートの分野への応用も進んでおり、中里唯馬さんというデザイナーがパリコレにインクジェットプリンタを使ったアート作品を出品しました。
これまでデジタルというと安いイメージだったものが変わってきています。デザイナーにとっては考えたものがすぐに実現でき、やり直しもできるメリットがあります。環境問題がまだ注目されていなかったころには故・山本寛斎さんもインクジェット技術を使ってくれていました。
――脱炭素に積極的に取り組んでいますが、その狙いは。
21年に、6年前に作成した長期ビジョン「Epson 25」を見直し、環境を前面に出して経営の中心に据えるように決めました。当社の持っている「省・小・精の技術」は環境に貢献できると自負しています。
長野県という自然環境に恵まれたところに本社と開発・生産拠点があり、過去にも30年くらい前に世界に先駆けてフロンレスを達成した経緯もあります。
環境の先進企業として、お金がかかってもやるんだという覚悟をして、社員も賛同してくれています。そこでまず環境についてカーボンマイナスを宣言して自らやらざるを得ない状況を作っています。
今後10年間で1000億円を投資して、再生可能エネルギー用の設備、技術開発などに投資します。国内は3月までに、使う電力の全てを再生エネルギーで賄う予定だったのを、前倒して昨年11月に達成しました。実際には工場で太陽光発電をしたり、電力会社から水力発電など再エネ発電をした電力を購入したりしています。
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