観光ホテル? エコノミーホテル? 「うちをビジネスホテルと呼ばないで!」問題を考える:瀧澤信秋「ホテルの深層」(2/5 ページ)
宿泊特化型タイプのホテルを表現する言葉として“ビジネスホテル”はその代表格といえる。しかし、最近はさまざまな宿泊特化型ホテルが誕生している。宿泊特化型ホテルが世間的に“ビジネスホテル”と呼称される事実と、それに違和感を覚える事業者の声を深掘りしていく。
ビジネスホテルの観光向けホテル開発
ところで、法華倶楽部というと、筆者個人としては「アルモントホテル」も印象に残るブランドだ。京都駅八条口への開業当初に宿泊した経験があるが、宿泊特化としながらもハイクラスな内容であった。
アルモントホテルは2012年から展開している。この時期といえば、インバウンド活況への序章的な時期でもあり、公式Webサイトによると「観光利用のゲスト向けに開発した」としていて、同社の先駆け的な符号も見える。
この、「新たな観光向けホテル開発」という表現も興味深い。同社が、ビジネスホテルの起源としてビジネス需要を大いに取り込んできたとすると、「新たな観光向けホテル開発」というフェーズは、宿泊に特化したホテルにおいても、近年の観光ブームと訪日外国人旅行者需要が、新たな創出につながったことを示している。
“宿泊特化型”という言い回し
ところで、前編・後編を通して“宿泊に特化”“宿泊を主体”という言い回しをしているが、筆者の造語ではない。業界では「宿泊特化型ホテル」「宿泊主体型ホテル」との表現が定着している。
筆者の記憶の域を出ず恐縮であるが、宿泊特化型という表現は業界専門誌が端緒で、ビジネスホテルという慣用的な表現とは一線を画し、より的確に業態を表していることから業界内で定着していった。
一方で、コンセプト性の高い宿泊特化型タイプの施設には、もはや“宿泊にのみ特化”しているとは言い難いことから「宿泊主体」という表現も一部用いられている。いずれにしても一般的にはなじみのない言葉であるが、宿泊特化型ホテル/宿泊主体型ホテルがビジネスホテルとイコールでないことはお分かりいただけるであろうか。
業界内の話になってしまったが、ビジネスホテルという言葉が持つ“機能性”“利便性”“リーズナブル”といったイメージにそぐわない、宿泊に特化、あるいは宿泊を主体にしたホテルが増加してきた一方、特にメディアを中心としたさまざまなシーンにおいて「ビジネスホテル」というくくりで言い表され続けていることについては、筆者自身のジレンマもあり、何か代わる表現はないものかと考えることは多い。
関連記事
- ビジネスホテルの“無料朝食”、気になる原価は一体いくら? 激化する“朝食合戦”から見るホテルの今
ホテルが朝食で特色を出そうとしていることは、宿泊者としてひしひしと感じる時がある。新たな施設の建設やリノベーションを施せば特色は強く打ち出せるが、コストはバカにならない。朝食は差別化のアイテムとして取り組みやすい部分なのだろう。 - ホテル1室のアメニティー、清掃費用は一体いくら? ホテルの気になる“原価”あれこれ
コロナ禍で価格が下がっているホテル利用料金。そもそも原価はどのくらいなのだろうか。運営会社に取材を試みた。 - バブルの名残 温泉街の「大型施設」が廃墟化 鬼怒川と草津の違いと「大江戸温泉物語」の戦略
コロナ禍がもたらす温泉街への影響は甚大だが、「温泉の魅力」として考えさせられるのが“街づくり”という点だ。筆者は「施設そのもので集客できる強い宿は例外的で、温泉地の魅力自体が集客を左右する」と指摘する。 - 寮発祥のドーミーインが「大浴場」をどんどん展開するワケ 手掛ける「和風ビジネスホテル」とは?
「宿泊施設のカテゴリーボーダーレス化」が進んでいるが、ドーミーインのサブブランド「御宿 野乃」もそのひとつだろう。 - 「プラスチック新法」に対応したらアメニティーが“ごっそり”盗まれた? 対応に右往左往する現場のリアル
4月1日に施行された通称“プラスチック新法”。「ホテルの客室からアメニティーが無くなる!?」といったうわさがまことしやかに広がったが、実際はどうなのだろうか。ほぼ毎日ホテルに宿泊する筆者が現場を調査したところ……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.