優秀な人を欲しがる現場、見つけられずに悩む人事──「中途採用の壁」を壊すため、何をしたのか:狙うは引く手あまたのDX人材(2/4 ページ)
DX人材の採用に注力し始めても、部門の要求が高く、マッチする人材がそもそも見つからなかった東洋エンジニアリング。開始から「半年間、成果なし」だった市場価値の高い人材の採用を、どのようにして軌道に乗せたのか。取り組みを聞いた。
部門の“高すぎる要求”が壁に どう対応した?
その1つが、部門が求める要件が高すぎて、見合う人材が見つからないという課題だ。
自身もキャリア採用で入社し、子会社でグローバル採用を長年担当してきた矢島氏は「はじめのうちは、各部門から提出されたジョブディスクリプション(求人要項)を元に、人事部でサーチしていました」と言う。
「それでも要求が高すぎて、マッチする人材が見つからない。見つかってスカウトメールを送っても、全員が返信してくれるわけではない。おまけに、どの業界でも欲しがられている人材なので、向こうに選んでもらう必要がある。それを各部門にも理解してもらう必要がありました」
そこで行ったのが部門との「サーチセッション」だ。
ジョブスクリプションを提出した部門に、DX人材の不足や採用意向がある企業の多さなど転職マーケットの実情を知ってもらい、スカウトメールを送っても返信率は10%程度であることなどの前知識を伝える。その上で、ジョブスクリプションに沿った内容で実際に検索し、どれだけヒットするのか、ヒットした人がプラントエンジニアリングの会社への転職を希望しているのかなどを確認してもらう。こうして、人事が面接にこぎつけるまでにどれだけの苦労があるのかを知ってもらうための1時間のセッションである。
「これによって、相互理解が深まります。人事部では、これだけの労力を費やして、面談を行っている。1人を採用するのがいかに大変なのかを知ってもらい、部門との協力体制を構築しているんです」(矢島氏)
サーチセッション後は、部門の採用責任者にサーチ権限を付与している。同社が利用しているダイレクトリクルーティングサービスでは、職務経歴やスキル、転職に希望することなどを、個人を特定できない形で検索することが可能な上、必要があれば人事部以外にも権限を付与できるからだ。
その結果、サーチセッションを受けた部門は、自分たちで要件を入れて検索し、全くヒットしなければ、要求を段階的に下げていくといった調整ができるようになった。また、マッチしていると感じる候補者を自分たちで見つけ、以降のプロセスを人事部に依頼するというテンプレートが完成した。
「ジョブディスクリプションを作成する、ということは要件を言語化できているということ。見つけられなければ、徐々に下げて妥協点を見つけるのも容易になります」と佐藤氏は言う。「そのため、見つけやすい要件へのソフトランディングも簡単になったのではないかと思います」
もちろん、全部門が開始当初から積極的だったわけではない。協力してくれる部門との関係を大切にすることから始めていった。
「まずは協力してくれる部門とコラボして、採用の成功事例を作ること」と矢島氏。「成功事例が生まれれば、ほかの部門もせきを切ったように協力してくれました。1件目の成功事例を作ること、そして協力体制を築くことが、ダイレクトリクルーティングでは大切だと考えています」
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