セダンの再発明に挑むクラウン(1):池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/8 ページ)
クルマの業界ではいま、クラウンの話題で持ちきりである。何でこんなにクラウンが注目されているのかだ。やっぱり一番デカいのは「ついにクラウンがセダンを止める」という点だろう。
「セダン」というデザイン
先に挙げた3つの項目の内最後のひとつ、フォーマルなスタイルというのはどうなのか? これは、世の中がどういう形状のクルマを「セダン」と見るかという話であり、そこから外れるとセダンらしくないといわれてしまう。
今回はまずその形状を比べてみよう。以下5台のクルマが並ぶ。あんまりやりたくなかったのだが、写真の向きを揃えるためにベンツと15代目クラウンの画像を左右反転させている。
まずはセダンのお手本ともいえるメルセデス・ベンツEクラスだ。セダンの形といわれたとき、おそらく多くの方が1985年デビューのW124型と呼ばれるこれを思い起こすのではないかと思う。いや若い方は違うかもしれないが、筆者のような世代にとってはこれぞセダンという形である。
次に直近3世代のクラウンだ。古い順に並んでいて、上から14代目、15代目、そして最新型の「クロスオーバー」と「セダン」の順である。
ベンツの成り立ちを見ると、ボンネット上のラインがそのままサイドウインドー下端を通って、後方のトランク上面へとつながっていく。このラインをウエストラインと呼ぶが、前から後ろまで構造体そのものがウエストラインとなって水平に通り、その上にキャビンが乗っかっている形である。
前にエンジンルームの箱、真ん中にキャビンの箱、後ろにトランクの箱という3ボックススタイルなのだが、その実は、前から後ろまでズドーンと通ったロワーボディにキャビンがちょこんと乗った形状である。こうすると、伸びやかで格調高く見える。これがいわゆる視覚的にセダンに見える形だ。
もう一点重要なポイントは、後席の乗降性への配慮である。リヤドアのオープニングラインの角(写真では右上角)は、乗降時に頭が通る部分。ここをしっかり確保しないと乗り降りで頭を強くかがめなくてはならなくなる。かつてのセダンの定石としては、この「頭入れ」がキチンとしていないとセダンとして半人前ということになっていたのだ。
では14代目クラウンはどうなっているかというと、ボンネット面とサイドウインドー下端のラインに食い違いがある。これは歩行者保護のためにエンジンとボンネットの隙間を設けなくてはならなくなって、否応なしにボンネットが高くなったからだ。その高さでサイドウインドー下端のウエストラインを設けると、ウィンドー面積が狭くなり、閉塞感が強くなる。なのでボンネット面とウインドー下端に食い違いが生じる。それを視覚的に避けるために、ヘッドランプ上端付近にプレスラインを設けて上向きの法面を作り、これをウエストラインに見立てて、前から後ろまで面を通した。
この法面こそが14代目クラウンをセダンらしく見せているデザイン的キーである。リアドアのオープニングラインを見ると、Bピラーから若干下降気味であり、万全とは言い難いが、それでもやはり角をしっかりつけた、乗降性への配慮のあるドアオープニングである。
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