日本のクラウンから世界のクラウンに その戦略を解剖する(2):池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/7 ページ)
1955年のデビュー以来67年15世代に渡って、クラウンは日本国内専用モデルであり続けた。しかし国内のセダンマーケットはシュリンクの一途をたどっている。早晩「車種を開発生産していくコスト」を、国内販売だけで回収することは不可能になる。どうしてもクラウンを存続させていこうとすれば、もっと大きな世界のマーケットで売るしか出口がない。
トヨタの後出しジャンケン
従来、トヨタは原則的に「後出しじゃんけん」戦略で戦ってきた。実験的なトライをするメーカーが多くの失敗を繰り返しながら、ようやく千三つで拾った成功の方程式を、満を持して横からかっさらう。ホンダ・ストリームを横目で睨んで後出ししたウィッシュが特に有名だが、それだけではない。そもそも初代日産サニーに対する初代カローラもそうだし、日産エルグランドに対するアルファードもそうだ。
トヨタ幹部の1人は、BEVだってどういうクルマが売れるかが分かってから後出しした方が絶対有利だと言う。しかし、現在のセダンリーグばかりは後出しが使えない。セダンマーケットが徐々に行き詰まりを見せ始めた2000年代頭、世界の自動車メーカー各社はいろいろと策を打った。そうした数打ちゃ当たるの中で、本当にヒットを出して見せたのが2005年のメルセデス・ベンツCLSである。これこそがクーペライクセダンの第一号である。
ということになっているのだが、歴史というのは複雑で、もっと前に日本国内でクーペライクセダンは一度そこそこのブームを巻き起こしている。トヨタで言えば1985年のカリーナEDや89年のコロナEXIV、スプリンター・マリノ、カローラ・セレスなど、日産にはプレセアが、マツダにはペルソナがという具合で、前例は山ほどあった。
ただ当の日本のメーカー自身が、まさかそんな非合理的なパッケージがグローバルで通用するとは思っていなかっただけの話である。国内のニーズは地の利を生かしてよく分かるが、当時の情報収集力では海外のそれはなかなか掴(つか)めなかったのだろう。もし、この時、日本発の新コンセプトとして、クーペライクセダンを打ち出していたら世界の流れは変わっていたかもしれない。そこは時の運に支配されるものだ。
グローバルでクーペライクセダンの先駆けとなったベンツのCLSだって、実のところジャガーXJシリーズの成功を見ての後出しである。そしてそもそもジャガーXJは、いにしえのスポーツカー、ジャガーEタイプのシャシーを貧乏ったらしく長年に渡ってキャリーオーバーしてきたので、高いルーフのサルーンボディが構築できず、しぶしぶ低く長いボディを採用していたら、時代の風が偶然吹いてきて、それがカッコ良いと評判を呼んだだけの話である。
ということで、CLSの成功を見て猫も杓子もクーペライクセダンを出して、宴たけなわを過ぎた頃に、トヨタは15代目クラウンでそこに参入し、残念な結果に終わった。余談としていえば、実はこの15代目クラウン、運動体としての出来はすこぶる良い。走りは抜群に良いし、乗り心地も素晴らしい、ADASの出来も当時としては出色だった。しかもハイブリッドなら平気でリッター20キロ近く走る。多分中古車人気は低かろうと思うので、狙い目の一台だと思っている。ただしあの内外装、特に内装のデザインが許せるのであれば。
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