問題行動の多い社員のシフトを無断でカット 賃金補償の義務は生じる?:判例に学ぶ「シフト制」(2/5 ページ)
シフト制の揉め事の一つであるシフトカット、労働契約書に「出勤日は会社が作成するシフトによる」と定めていれば、理屈上シフトカットは可能。しかし、状況によっては会社に賃金補償の義務が生じるケースもあるという。社会保険労務士が判例を基に解説する。
異動を拒否する社員のシフトカット、問題は?
2つ目の判例として「別チームへの異動を拒否したパートタイマーのシフトカット」に関する判例を紹介します。
ケース2:異動を拒否する社員のシフトカット(参考:東京地裁 20年11月25日)
- 会社は介護及び放課後デイサービスの事業を営み、従業員Xは介護職の求人に応募し、面接で週3日の勤務が希望と伝え、パートタイマーとして採用された。
- Xの労働契約書には、1日8時間、出勤日はシフトによると記載されていた。
- Xは当初、介護の仕事をしていたが、途中から放課後デイサービスへの異動を命じられたため、労働組合に加入し団体交渉を通じて、従来の介護の仕事に戻すように要求した。
- 会社はそれを認めず、Xのシフトを減らし最終的に出勤なしの状態になった。
- Xは、会社が行ったシフトカットは権利の濫用だとして週3日勤務分の賃金の補償を求め訴えた。
Xの出勤日数は以下の通りで、8月ごろから出勤日数が減りました。
裁判所はシフトカットについて「……シフト制で勤務する労働者にとって、シフトの大幅な削減は収入の減少に直結するものであり、労働者の不利益が著しいことからすれば合理的な理由なくシフトを大幅に削減した場合、シフトの決定権限の濫用に当たり違法となり得る。不合理に削減されたといえる勤務時間に対応する賃金について民法536条2項に基づき賃金を請求し得る」との見解を示しました。
このケースの場合、労働を拒否した日数は「所定労働日数−実際の労働日数=拒否した労働日数」で求められます。Xは面接時に希望した週3日の勤務が所定労働日数だと主張したものの、裁判所は合意事項ではないと否定し、5〜7月の勤務実績を平均して所定労働日数を求めました。
その上で9〜10月の2カ月について合理的な理由はなく使用者のシフトの決定権限を濫用したものとして違法であるとし、所定労働日数を勤務した場合の賃金と既に支払った賃金との差額の支払いを命じました。一方で、11月以降については、Xが放課後デイサービスでの勤務を明確に拒否したことがシフトカットの合理的な理由になるとして権利濫用があるとはいえないとジャッジしています。
ここまでシフトカットに関する判例を紹介しました。再発防止ためにどのようなことが必要だったのかを解説する前に、シフト制の定義や運用ルールについて振り返ってみたいと思います。
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