黒字でも希望退職を募る企業のホンネ──5年後に迫る「深刻な問題」とは:改正高齢法の実情(2/4 ページ)
コロナ禍で希望退職者を募る企業が相次いだ。黒字でも希望退職を募る企業が少なくないのは、なぜなのか? 5年後に迫る「深刻な問題」とは──。
大企業だけではない。中堅卸売業の人事部長は「40〜60歳の社員の人件費が全体の60%を占めている。今後新規事業に挑戦していくには中高年社員を戦力化していく必要があるが、中には気力・体力も落ち、モチベーションが低い社員も少なくない。事業成長のために優秀な人材を外部から採用し、中高年の社員を削り、その分の人件費を人材の確保や新規投資に回したい」と語る。
バブル期入社世代の60歳到達が間近に迫る中で、高齢従業員を抱える負担を少しでも軽減したいという思いがあるのだ。
高齢社員の削減&中途採用か、リスキリングか
人員削減を行うと同時に中途採用を積極的に実施している企業も多い。コロナ禍のビジネス環境の変化やデジタル化推進を目的に外部から積極的に人材を調達する企業も増えている。
こうした企業に共通する人員削減の理由は(1)50代以上の社員は新しい仕事への意欲に乏しい、(2)人口構成の修正による外部人材の獲得や若手の活性化、(3)コスト削減効果――の3つに要約できるだろう。
一方で、中高年社員のモチベーションを喚起し、リスキリングによる戦力化を図ろうという企業も増えている。
長年キャリア開発研修を手掛けるコンサルタントはこのように話す。
「『生き生きチャレンジ制度』または『セカンドキャリア実現制度』といった名前で希望退職を募る企業の人事部から『辞めてほしい人が辞めないんです』という相談は以前からある。そんな中、最近は社員のモチベーションを高め、戦力化しようという会社が増えてきている。何らかの取り組みをしている企業が3〜4割、一方、モチベーションが上がらず困っていると言いながら何もしていない会社が6割程度ある」
長期就労を見据えたシニア社員の戦力化の課題として、モチベーションの向上と並んで重要なのが「最新のビジネスに必要なスキルの修得」だ。
しかし、ICT(情報通信技術)やデジタル化の進展によってビジネスモデルが激しく変化する時代にどんなスキルが必要となるのか本人はもちろん会社も予測できない。少なくとも50歳前後のシニアの段階から自らのキャリアを意識し、ビジネスの動きを見据え、新しいことを学ぶ習慣を身につける必要がある。
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