なぜ? 任天堂に日本郵船――投資の神様・バフェットが否定的な「株式分割」に大企業が乗り出す理由:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/4 ページ)
任天堂や日本郵船など、大企業で相次ぐ「株式分割」。投資家視点では、これまで手が出せなかった株がお手頃価格になる一方、企業にとってデメリットはないのか。そもそも、投資の神様・バフェットは株式分割に否定的とされるが……
例えば、ケーキを購入したとして、それを2個に切り分けても、100個に切り分けても、ケーキの総量は変わらない。また、ケーキを切ることによってケーキ本体の見栄えも悪くなるし、ナイフにクリームがくっついてしまうという「ムダ」も生まれる。
ムダの筆頭が、株主の管理コストである。通常、株主には株主総会の通知を郵送したり、配当金や株主優待を手配したり、名簿を作成したりという管理コストがかかる。つまり、ケーキ(株式)を分割して多くの人がケーキを入手できる(株主になる)と、ナイフにクリームが持っていかれる(分割のためのコストがかかってしまう)ことになるのだ。
ただし、バフェット氏が最も懸念しているのはケーキ本体の見栄えが悪くなることにありそうだ。つまり、価格を下げてたくさんの人が入手できるようになると、必然的に「株価が安いという理由だけで買う」投資家が増える。また、企業の事業内容や、投資そのものの知識がなく、自分が何をしているのか理解していない初心者が「株主」という会社の所有者になることを恐れている様子が、各種の発言から読み取れる。
株主は会社の責任者である
実際、筆者が初めて株式投資を行った学生時代には、サハダイヤモンドと呼ばれる1株10円程度で取引されていた低位株を「株価が安い」という理由だけで買ったこともあるし、銀行株の中でも、当時は200円程度と飛び抜けて1株当たりの値段が安かったみずほ銀行に投資していたこともある。
業績の責任を最終的に負うのは、会社の所有者である「株主」だ。もし、みずほ銀行の立場で考えると、学生でかつ、投資を始めて1カ月に満たない若輩者がそんな責任者になっていたということである。なんだか末恐ろしい話だ。
筆者の体験として書くが、さまざまな株主総会に出席して感じたこととして、確かに投資単元の高い企業の株主質問の方が低位株の株主総会よりも的確であるという傾向があるようにも思えた。特に、低位株においては「株価はいつ上がるのか」といった質問はほぼ毎回目にするが、投資単元が高くなるほど「業績や事業そのもの」についての質問が目立つようになる。
15年ごろ、三井住友フィナンシャルグループ(FG)の株価が4000円程度で推移していた際、みずほ銀行の株価は200円程度で推移していた。時価総額で比較すると両者にそれほどの差はないが、「みずほ銀行が三井住友銀行の株価を越える日を楽しみにしている」といった年配株主の発言がいまだに深く印象に残っている。仮に当時の株価水準でみずほ銀行の株価が三井住友FGに追い付くと、前者の時価総額は80兆円と、当時のアップルよりも高くなってしまうと考えれば、非現実的な発言と分かる。
バフェット氏が議決権のある株式を分割せず、ある種「資産のフィルター」を設けている背景には、事業や業績に興味がない投資家に自分の会社を所有されたくないという思いもあるだろう。これは、自身が大切に所有しているコレクションを小さい子に持たせたくないという心理と似ている。株式分割はエナジードリンクのように一時的には効果があるものの、そもそも業績を出していれば、株価が小さくないと買えない個人投資家をわざわざ頼る必要はないという意見があることもうなずける。
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