給与の高い会社、低い会社を分ける「4つの要素」 結局、経営者の腕なのか?:ダメ経営者は分かっていない(1/4 ページ)
世の中には給与が高い企業と低い企業があります。誰しも給与が高い企業に入りたいところですが、その違いはどこから生じているのでしょうか?
結局、給与は何によって決まるのか
世の中には給与が高い企業と低い企業があります。例えば、給与が高い企業として紹介されることが多いM&Aキャピタルパートナーズの平均年収は2000万円を超える一方で、平均年収200万円台の上場企業も存在します。
誰しも給与が高い企業に入りたいところですが、その違いはどこから生じているのでしょうか? 「経営者の腕次第」「労組の強さに比例する」など、さまざまな言説がありますが、本当でしょうか? 解説します。
要素(1)経営者が効率性賃金論者か
最大の要素はやや精神論めきますが、経営者が「効率性賃金説」を信じているかどうかです。効率性賃金説とは、従業員に高い賃金を払うことは企業にとって効率的であり、高い買い物にはならないという、労働経済学の用語です。
大企業ならば通常、ここは問題ありません。株式を公開している大企業の経営者は、利益を上げなければ解任されてしまうため、効率性を重視します。当然、賃金は効率性賃金です。大企業が経営不振に直面したとき、賃金カットではなく人員削減を選ぶのはこのためです。
しかし中小企業の場合、多くはオーナー企業であり、経営者は解任を恐れる必要はありません。このため社員の賃金を上げるべき、強いインセンティブを持ちません。あるいは効率性賃金説そのものを知らず、とにかく人を安く長く(長時間)使うほど会社がもうかると、素朴に信じている経営者もいます。その結果、生産性向上策を特に打たず、低い賃金でずるずると経営しているケースがあります。
もちろん、効率性賃金は精神論だけで実現できるものではありません。戦略が必要です。「高業績人事制度」と呼ばれるものがあり、次のような人事制度を多く導入している企業ほど従業員一人当たりの売上高も利益も高いことが分かっています。
高業績人事制度
- 従業員が社内の情報共有システムにアクセスできること
- 職務分析を実施すること
- 昇進は内部者優先であること
- 従業員からの意見を募集すること
- QWL(引用者注、労働生活の質改善) プログラム、QCサークル、従業員参加プログラムなどがあること
- 利益分配制度、節約賃金分配制度などのインセンティブがあること
- 教育訓練を実施すること
- 従業員からの苦情申し立て制度があること
- 従業員の採用に際して試験を行うこと
- 成果査定を通じて賃金を決定すること
- 従業員の職務成果を査定すること
- 昇進者の決定に際して成果査定を重視すること
- 採用に際して広く公募を行うこと
これらをどれだけ多く採用しているかが、経営陣が効率性賃金論者であるかどうかを推し量る検査キットといえます。
要素(2)社員は資質より訓練
高賃金会社と低賃金会社を分ける第2の要素は、教育訓練に熱心であることです。一般的に、賃金は企業規模が大きいほど高い傾向があります。その原因として、小企業より大企業の方が、採用試験が難関であり、社員のもともとの資質が高いためだ、と考える向きもあるようです。
しかしこの説は間違いです。労働経済学者である玄田有史氏は、「『資質』か『訓練』か?―規模間賃金格差の能力差説」(『日本労働研究雑誌』1996年1月号所収)という研究をしています。
これによると、製造業に限定した話ですが、50歳代未満の層での、賃金格差の半分以上が職場訓練の効果によると結論付けています。特に「男子・大卒・事務職」層の、大企業と小企業の賃金格差は、9割近くが職場訓練の差によって説明されるとしています。パート労働者も小企業より大企業の方が高賃金ですが、「パート・50歳未満」の層では、賃金格差の7割以上が職場訓練の差によって生じています。
より最近の研究では、やはり経済学者である横山泉氏が、企業が近年、少数精鋭の労働者に教育訓練の重点投資をしており、高賃金男性の層でのみ、勤続年数にスライドして賃金が増加する割合が強まっていることを示しています(『経済セミナー』2018年6・7月号所収『人的資本と賃金の決まり方』より)。
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