「京成スカイライナー」がジレンマ 優先するのはスピードか停車駅増か:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
11月26日のダイヤ改正で、スカイライナーのうち青砥駅停車列車が新鎌ヶ谷駅にも停車することになった。かつてスカイライナーの京成上野駅発車時刻は毎時00分、20分、40分だったが、青砥駅に停車するため2020年に一部の発車時刻が3分繰り上がった。しかし青砥駅停車は2つの意味で問題がある。
スピードか乗車機会増加か、板挟みの特急列車
所要時間短縮をとるか、停車駅を増やして旅客を獲得するか。スカイライナーに限らず有料特急列車にとって悩ましいところだ。小田急ロマンスカーも「新宿〜小田原間ノンストップ」の列車は少ない。国鉄時代の東海道新幹線「ひかり」も地域の要望のままに停車駅を増やし続けて「ひだま」と揶揄(やゆ)されていた。まるで「こだま」みたいな「ひかり」という意味だ。ひかりの停車駅が増えたため、速達欲求を満たす列車として「のぞみ」が生まれた。
京急電鉄も特急停車駅が増えたため、新たな速達列車として「快速特急(現・快特)」を設定した。その後、日中の特急のほとんどを快特にしたけれど、11月26日ダイヤ改正で快特3本のうち1本が特急になった。これも停車駅増による集客を狙った施策だ。
実は、スカイライナーも京成本線運行時代に同じ悩みを抱えた。1978年の運行開始時は「成田空港へノンストップ」とはいえ、終点の成田空港駅(現・東成田駅)はターミナルから離れておりバス連絡だった。そこで79年から京成成田駅に停車し、成田山参拝客を見込んだ。91年に成田空港ターミナルビルの地下駅に乗り入れたけれども、日中時間帯は空席が目立った。そこで06年から京成船橋駅も停車した。千葉県主要都市と成田空港を結ぶという集客はできたけれども、速達性は下がっていく。
10年に北総鉄道から延長する形で「成田スカイアクセス線」が完成し、スカイライナーは現在のルートとなった。都心〜成田空港ノンストップ時代が再び始まった。京成本線時代の所要時間は51分、それが成田スカイアクセス線で36分に短縮された。
そんなスカイライナーも、また「停車駅増で集客」に傾きつつある。青砥駅・新鎌ヶ谷駅の停車によって「速いスカイライナー」と「遅いスカイライナー」ができてしまった。いっそ南海電鉄の空港連絡特急「ラピートα」「ラピートβ」のように、速達タイプの「スカイライナーα」と停車タイプの「スカイライナーβ」と呼称を分けてもいいかもしれない。
「スカイライナーβ」には千葉ニュータウン駅を追加してもいい。千葉ニュータウンを振興し、北総線沿線を盛り立てる手段として、スカイライナーの停車が貢献するだろう。もしかしたら、11月26日のダイヤ改正は、スカイライナー新時代の始まりといえそうだ。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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