日の丸半導体「ラピダス」の勝算 “周回遅れの惨状”から挑む「最後のチャンス」:人材の確保がカギ(2/5 ページ)
政府は、経済産業省が中心となり欧米との国際連携を軸に次世代半導体の量産する新会社「ラピダス」と、研究開発拠点である技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)をセットにした半導体産業の復活を掲げる基本戦略構想を打ち出した。
「オールジャパン」で遅れを取り戻す
半導体不足は日本経済にも深刻なダメージを与えている。この1、2年は自動車メーカーの生産ラインが半導体不足のため一時的にストップしたりする事態が起きている。
この他、鉄鋼、電力、輸送などインフラ関連でも半導体の需要はうなぎ上りに増えていて、世界の先端技術に追いつくためには、「オールジャパン」で取り組まざるを得ないという認識が産業界の中にも醸成されてきた。
「ラピダス」に出資した企業は、トヨタ、NTT、NEC、ソニーグループ、ソフトバンク、デンソー、キオクシア、三菱UFJ銀行など各分野のトップが名を連ねている。全体のかじ取りは経産省がするが、これだけの主要企業がタッグを組んだところからみても、「『オールジャパン』で何としても半導体の遅れを早期に取り戻さなければならない」という意気込みが伝わってくる。
中でも自動車メーカーは、カーボンニュートラル政策のもと、EV(電気自動車)シフトの流れを進めている。そして、今後生産が増えてくるEVは従来のガソリン車に比べて使用する半導体の量が数倍増えるといわれている。
今後はEVの増産が見込まれているだけに、自動車メーカー各社は必要とする半導体の確保に血眼(ちまなこ)になっている。
EVでは、動力源がモーターに変わり、モーター制御に必須なインバーターに多くのパワー半導体が使われるため、注目されている。杉山氏は「パワー半導体は日本の半導体メーカーが強い分野だ。世界中で電力不足が叫ばれている時だけに、パワー半導体で日本が存在感を発揮できれば、市場をけん引していけるだろう」と予想している。
強い企業と連携
杉山氏は「今回の経産省の発表でこれまでと大きく異なるのは、日本の国内メーカーだけによるオールジャパン連携ではなく、欧米の強いメーカーと組んだことだ。これまでは『井の中の蛙』でやってきたが、これでは成功しないと気付いたのではないか」と強調する。
具体的には全米半導体技術センター(NSTC)や米IBM、ベルギーの研究組織IMECなどに加えて、極端紫外線と呼ばれる非常に短い波長の光を用いた半導体露光装置(EUV)技術を持っているオランダの半導体製造装置メーカーASMLと連携。回路幅が2ナノ(1ナノは1メートルの1億分の1)以下の微細加工技術の習得を目指す。
2ナノレベルの半導体回路の露光装置ではASMLが市場を独占しており、この装置がないと製造できないといわれている。日本のニコンは、かつては回路幅40〜50ナノの時は露光装置の主要メーカーだったが、その後は設備投資を怠ったため、EUV露光装置は製造できていない。
国際連携の流れの中では12月13日、米IBMは半導体製造で2ナノ回路開発で、「ラピダス」とパートナー契約の締結を発表した。これについて杉山氏は「世界から先端ロジック製造技術の10年遅れを取り戻すための手段とみています。米IBMの2ナノ製造技術を学び、それをベースに量産時には、IMEC、ASMLとも協業して量産していく必要があり、そのように推進しているとみています」と指摘する。
今回明らかになった日本の半導体産業復活の基本戦略について杉山氏は、ステップ1から3までの3段階になっていると説明する。
ステップ1は、IoT用半導体生産基盤の緊急強化で、21年には7800億円以上が投資され、世界で最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県に建設する工場などへの助成に充てられる。この時点で世界の半導体市場規模は約50兆円だ。
ステップ2は、日米連携による次世代半導体技術基盤を習得し、国内で量産できるようにする。市場規模は約75兆円だ。
ステップ3は、グローバル連携による将来技術基盤の実現だ。NTTが次世代ネットワーク構想として30年に実現しようとして研究開発を進めている光電融合技術「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network、アイオン)」などが含まれる。市場規模は約100兆円だ。
この発表より前の8月31日にNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が、「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業・先端半導体製造技術の開発に関する公募」を実施している。これを見ると光伝送高速化技術、露光・微細加工技術の開発などが含まれている。ここで採択された研究開発が新しくできる「LSTC」で実施され、実用化のメドがたったものは「ラピダス」での量産に利用されることになる。
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