W杯で赤字のABEMA、巨額投資をどう回収? 「次の一手」を予想してみた:妄想する決算「決算書で分かる日本経済」(4/7 ページ)
昨年末のW杯では、全試合無料生中継を実施したサイバーエージェントの「ABEMA」に注目が集まりました。巨額を投じたABEMAのメディア事業は現状なお赤字ですが、今回の投資によって2つの成長余地が生まれたと筆者は考えます。
テレビの放映権獲得は、ABEMA成功でさらに困難に
今回の放送の成功を受け、サイバーエージェントの藤田晋社長は次回のW杯放送にも意欲を見せています。そうなると次回以降はテレビ局が放映権を取るのはさらに難しくなっていきそうです。テレビは放映権の購入費用を、広告収入で回収しなければいけません。以前から高騰する放映権を前に採算が取れなくなってきていましたが、ついにその額に耐え切れなくなったのが今回のW杯でした。
今回ABEMAでの視聴が市民権を得たことによって、次回からもテレビでの視聴率が下落することが考えられます。となると広告収入の低下につながる可能性は高まり、放映権の購入は一層難しくなることでしょう。
さらに放送時間が日本時間では深夜や明け方だったこともあり、今回のW杯はABEMAではオンデマンドでの視聴が44%を占めました。こうしたオンデマンド視聴もできる点も、ABEMAの優位性の一つです。次回のW杯は北米開催で時差が大きく、オンデマンドのあるABEMAの優位性が大きいと考えられます。
W杯前は赤字は減少傾向 今後どこまで改善されるか
さて、業績に話を戻します。
ABEMA関連の売り上げの四半期ごとの推移を見てみると、売り上げは堅調に伸び続けており、前期比で40%、前四半期比でも14%以上成長しています。
特に伸びたのは広告収益です。今回の業績はW杯時の一時的な広告増加の影響がありますが、W杯は11月末からだったため、その本質的な影響は1カ月程度しか表れていません。広告の出稿もすぐに決まるわけではないと考えられます。次の決算以降ではっきりとしたW杯の成果が表れてくるはずです。
また、今期はW杯の費用で非常に大きな赤字となりましたが、それ以前は赤字幅は縮小傾向にありました。W杯の成果がきちんと表れ始める時期以降はさらに改善が期待されますから利益面でどの程度改善が見られるのかにも注目です。
メディア事業の売り上げ構成を見てみるとPPVと周辺事業、月額課金、広告とあり、実は最も大きな規模を占めているのが周辺事業です。
課金や広告より売り上げが大きい「周辺事業」とは
月額課金や広告はABEMAを利用していれば分かりやすく、那須川天心選手と武尊のキックボクシングの試合はPPVの売り上げが27億円にもなったことで大きな話題とりました。しかし、実はそれ以上に売り上げ規模が大きいのが周辺事業なのです。
周辺事業の中でも大きな規模を占めるのが「WINTICKET」という競輪・オートレースのインターネット投票サービスです。ABEMAでレースを中継し、ユーザーはそのまま投票できるようになっており、その取扱高は直近の第1四半期で889億円まで成長しています。インターネット投票におけるシェアも27%から38%まで増加していて、非常に好調です。
近年は公営競技の市場が非常に大きく伸びています。競輪・オートレースの市場も21年の10〜12月は1855億円だったものが、翌年の同時期には2212億円まで成長しており、中央競馬や地方競馬、競艇も大きな成長を見せています。
レースのインターネット配信や投票が容易になり、これまでは現地や一部の場外での販売が中心だったところから地理的要因を解決したことで顧客層が拡大しています。さらに地方競馬や競艇などはナイター開催なども増やし、仕事終わりの顧客の獲得も進んでいて、時間的制約も突破したことで成長が続いており今後も成長が予想されています。
市場自体が大きく成長することが見込まれるため、この周辺事業の業績も大きな成長が期待できるでしょう。
ABEMAの収益構造を確認したところで、W杯がABEMAにもたらしたものについて考えてみます。
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