W杯で赤字のABEMA、巨額投資をどう回収? 「次の一手」を予想してみた:妄想する決算「決算書で分かる日本経済」(5/7 ページ)
昨年末のW杯では、全試合無料生中継を実施したサイバーエージェントの「ABEMA」に注目が集まりました。巨額を投じたABEMAのメディア事業は現状なお赤字ですが、今回の投資によって2つの成長余地が生まれたと筆者は考えます。
高い年齢層にリーチし、収益性改善
最も大きな効果はユーザー数の増加に加え、高い年齢層にリーチできたことでしょう。W杯の視聴動向を見ると、35歳以上が55%を占めています。
これまでABEMAの人気コンテンツといえば恋愛リアリティーショーで、比較的若い層がメインユーザーでした。しかし若い層は比較的資金力が少ないため、ABEMAの収益源であるPPVや月額課金、周辺事業への課金力は低く、さらに広告単価を考えても低い水準です。
つまり今回、高い年齢層にリーチできたことは単純なユーザー数の増加以上に、収益性の改善につながりやすいと考えられます。
さらに、広告を出稿する側の意思決定権者の多くも年齢層は高いです。こうした層への認知度向上は広告の獲得しやすさを考えても好影響があるはずで、広告収益へのプラスの影響は大きいでしょう。
競馬などの放映権獲得の可能性が高まったか
そしてもう一つは、別の公営競技を獲得できる可能性が高まったことにあるのではないでしょうか。
現状の収益構造を見ても「WINTICKET」の規模は非常に大きいですが、「WINTICKET」が扱う競輪やオートレースは公営競技の中では規模が比較的小さく、中央競馬、ボートレース、地方競馬などの圧倒的な規模にはおよびません。
ABEMAがこうした他の公営競技に関しても事業化できれば、収益は大きく伸びると考えられます。これを後押しする材料として、公営競技の世界では、これまでは有料だったJRAのレースでも全レース無料配信を発表しています。
レースというコンテンツを有料にして多少の収益を得るよりも、そもそものパイを広げ投票によって収益を拡大した方が好影響があるということは、無料で視聴できUIも優れた競艇が大きく成長していることからも分かります。
JRAの全レース無料配信も、同じ流れから生まれた取り組みと思われます。となると、パイを広げるために影響力のある外部の企業を利用して間口を広げてもらう展開は十分に考えられるはずです。
そういった中でABEMAは「WINTICKET」の実績もあり、W杯の放送ではあれだけのアクセスをさばき、高品質な配信に成功しています。ウマ娘の競馬業界への貢献も大きく、さらに多くの独自コンテンツを作っているため、業界を盛り上げるようなバラエティ番組の制作も可能で、競争力があるでしょう。新たな公営競技を取れれば、大きな好影響が予想されます。
とはいえ中央競馬の放送はフジテレビやテレビ東京との結び付きが強く、ABEMAはテレビ朝日系のため業界の利権関係が複雑そうなのは、何とも言い難い部分です。
スポーツ賭博が解禁されたら、番組配信と投票サービスに成長余地
また日本でもカジノ解禁や、スポーツベッティングの合法化も検討されています。その善悪や合法性の判断は置いておくとして、現実問題として海外のスポーツベッティングやオンラインカジノを利用している日本人は多く、結果として日本の資産や日本のサービスとして運営すれば取れるはずの税収が海外に流出してしまっています。
これは日本にとっては明確な損失です。この点と、オンライン化の流れが不可逆であることから、いずれは合法化する可能性もないとは言えません。
スポーツベッティングが合法化された際には、スポーツ番組の放送も可能で、「WINTICKET」も運営しているABEMAには非常に強みがあります。こうしたことから、今後は公営競技やスポーツベッティングからの成長余地が大きいと考えられます。
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