W杯で赤字のABEMA、巨額投資をどう回収? 「次の一手」を予想してみた:妄想する決算「決算書で分かる日本経済」(6/7 ページ)
昨年末のW杯では、全試合無料生中継を実施したサイバーエージェントの「ABEMA」に注目が集まりました。巨額を投じたABEMAのメディア事業は現状なお赤字ですが、今回の投資によって2つの成長余地が生まれたと筆者は考えます。
ネット広告
ABEMAを中心とするメディア事業以外の事業についても、もう少し詳しく見ていきましょう。まずはインターネット広告事業です。
景気の影響を受けているとしつつも市場成長率が前年比10.0%に対し同社は12.7%の増収と、市場を上回る成長をみせています。インターネット広告市場は今なお成長市場です。安定した成長が見込まれる事業でしょう。
一方で利益面は13%の減益となり、利益率も低下が続いています。これには人員増加が関係しています。同社の中でも特に多く人員を増加させた部門がインターネット広告事業でした。
前期比ではインターネット広告事業が400人増に対して、ゲーム事業が283人増、メディア事業が83人増と成長事業のメディア事業や好調が続いていたゲーム事業以上に人員を増やしています。ここ数年の人員の推移は下記の通りで、ここ2年間ほどで大きく人員を増加させたことが分かります。
- 18年:1582人
- 19年:1553人
- 20年:1552人
- 21年:1623人
- 22年:1962人
- 23年(第1四半期):2055人
これによってここ2年間ほどは利益率が低下傾向にあったわけです。なぜこれだけ人員を増加させているのでしょうか。
2年ほど前から先行投資として、ヤマダ電機やサツドラといった大手小売りやANA、docomo、三菱UFJ銀行といった多くの取引データなど顧客データを持っている企業と連携してデータを活用した新しい広告事業の創出を図っていると同社は説明しています。
大手企業との連携が多く、しっかり収益化できれば業績面への貢献も大きいはずです。この先行投資がどれほど実を結ぶか注目です。
ABEMAやゲーム事業の注目度が高すぎて注目されていませんが、広告事業はゲームに比べ安定性が高く、この事業がしっかりとした柱となることは重要です。大きく人員を増やすなどの積極投資を、市場成長を上回る成長の継続につなげられるでしょうか。
関連記事
- スシロー、おとり広告で「信用失墜」し客離れ──それだけではない業績悪化のワケ
最近のスシローといえば、おとり広告の問題で景品表示法に係る措置命令を受けてしまった件は記憶に新しいことでしょう。こういった問題が起きるとどのような影響があるのかを「減損損失」という視点から見ていきます。 - 社長は「トヨダ」氏なのに、社名はなぜ「トヨタ」? “TOYODA”エンブレムが幻になった3つの理由
日本の自動車産業をけん引するトヨタ自動車。しかし、同社の豊田社長の名字の読み方は「トヨダ」と濁点が付く。なぜ、創業家の名字と社名が異なるのか? 経緯を調べると、そこには3つの理由があった。 - GMOの根幹にある「55カ年計画」とは? 安田CFOが明かす、市場や売上起点ではない経営
「CFOの意思」第6回の対談相手は、前編に引き続きGMOインターネットグループ副社長兼CFOの安田昌史氏。太陽黒点の周期に基づく「55カ年計画」と、目標達成が当然のGMO式経営とは? - ファミマに吸収合併されたコンビニはどれ? 「ポプラ」「スリーエフ」「am/pm」
ファミリーマートの店舗を目にしたとき、「そういえば、ここは数年前まで別のコンビニじゃなかったっけ?」と記憶をたどったことはないだろうか。同社はこれまで、複数の企業を吸収合併してきた歴史を持つ。 - 「部下を育てられない管理職」と「プロの管理職」 両者を分ける“4つのスキル”とは?
日本企業はなぜ、「部下を育てられない管理職」を生み出してしまうのか。「部下を育てられない管理職」と「プロの管理職」を分ける“4つのスキル”とは? 転職市場で求められる優秀な管理職の特徴について解説する。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.