「バス共同経営」の熊本県でMaaSアプリサービス開始 まるで公共交通問題のデパートだ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)
前回、ドイツ発祥の公共交通施策「運輸連合」と熊本県における路線バス「共同経営推進室」を紹介した。その後、熊本県はMaaSアプリ「my route」のサービスを開始すると発表。熊本市が先行したけれども、時を置かず他の都市でも同様の計画が立ち上がっていた。
運営会社はトヨタ自動車系列のトヨタフィナンシャルサービス(以下、TFSC)である。ここも興味深い。TFSCといえば自動車ローンの会社というイメージだ。実は私も1度、クルーガーVを買ったときに利用している。なぜこの会社がMaaSアプリをつくったか。トヨタ公式サイトのニュースルームを見ると、「my route」に関する発表の文章は「トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)は、」となっており、トヨタ自動車が主語だ。「my route」はトヨタの事業で、実行部隊がトヨタフィナンシャルサービスといえそうだ。
なぜ自動車メーカーのトヨタが、マイカーのライバルというべき公共交通を支援するのだろうか。タクシーを販売しているにしてもバスはライバルのはず。敵に塩を送るとは、世界的企業の驕(おご)りではないか。なんちゃって。これは下衆の勘ぐりだった。トヨタはグローバルな自動車メーカーを基軸に、もっと大きな存在になろうとしていた。
トヨタ公式サイトにある「CES 2018 トヨタプレスカンファレンス豊田社長スピーチ」にこんな言葉がある。
私はトヨタを、クルマ会社を超え、人々のさまざまな移動を助ける会社、モビリティ・カンパニーへと変革することを決意しました。私たちができること、その可能性は無限だと考えています。
私は、お客様がどこにいようとも、新たな感動を提供し、お客様との接点を増やす新たな方法をつくり出す、と決心しました。
自動車会社からモビリティ・カンパニーへ。モビリティ・カンパニーは、このスピーチ以降トヨタの公式サイトに頻出する言葉だ。自動運転やカーシェアリングの普及に伴って、自動車も「マイカー」だけではなく「公共交通」の役割を持つ。そのためには、人々が選ぶ公共交通のなかで、適材適所に自動車や自動運転の小型モビリティなどを提供していく。そういう未来を担う企業になろうとしている。このあたりの情報は池田直渡氏の連載『週刊モータージャーナル』を読んでいだいたほうが理解が深まるはずだ。
ともあれ、グローバル企業のトヨタが地方公共交通を支えるプラットホームをつくってくれている。これは心強い。福岡、愛知などではマイカーとの連携も探っているようで、個人、月極の空き駐車場を予約提供する「akippa」と実証実験を実施した。「my route」の検索結果にカーシェアリングや自動運転モビリティが登場する未来も見えてくる。
そして熊本県だ。バス共同経営のほかにも、熊本空港連絡鉄道計画、くま川鉄道と南阿蘇鉄道の被災復旧決定、肥薩線復旧未定問題などがある。熊本県はまるで公共交通問題のデパートだ。目が離せない地域になっている。
「my route」は初回登録に「TOYOTA/LEXUS共通ID」の登録が必要。そういう仕様だと理解するけれど、「my route」に登録するのになぜ? バスに乗るのになぜ? という違和感があった。利用者目線では戸惑ってしまう
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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