楽天モバイル、無料プランを廃止しても「赤字拡大」のワケ:妄想する決算「決算書で分かる日本経済」(6/8 ページ)
楽天モバイルの投資で苦しい状況にあり、無料プランを廃止したり、社員には契約ノルマが課せられているという報道もあった楽天。それでも赤字が拡大しているのはなぜなのでしょうか。
資金調達が加速
楽天モバイルの開始以降、資金調達は増加していて、2022年9月までに社債で約6100億円、劣後債で1200億円と、17.5億ドル、10億ユーロ、さらに増資で2423億円や、楽天証券の株式譲渡による800億円の調達などを進めています。
これ以降も、23年2月10日には円建てで3.3%の利回りの社債を2500億円、また、22年11月と2023年1月にドル建てでは10.25%、割引分も含めると約12%という高利回りの社債を計9億ドル発行しており、積極的な資金調達も話題で、大きく資金を必要としている状況にいることが分かります。
そして虎の子の金融事業においても、銀行はHDで上場予定です。資金需要が大きく増しています。
キャッシュフローはプラスに
しかし、今回の第4四半期では大きな変化もありました。第3四半期時点の非金融事業の営業キャッシュフローはマイナス3343億円、投資キャッシュフローは3105億円のマイナス。つまり、10〜12月で営業キャッシュフローは115億円のプラスになっています。
モバイルは大きなマイナスが続いているでしょうが、無料プラン廃止による収益性の改善や好調が続く他事業によって、キャッシュアウトは止まりつつあることが分かります。
そもそもモバイル事業は設備投資の規模が大きく、キャッシュアウトを伴わない費用である減価償却費が大きいビジネスです。
このため営業キャッシュフローに関しては、赤字の額ほどマイナスが大きい事業ではありません。こうした要因も影響しているでしょう。苦しい状況の続く楽天にとっては大きな転換です。
しかし、投資キャッシュフローは936億円のマイナスが続いています。
設備投資に関しては、24年から減少見込みとはなっているものの、23年も3000億円、24年も1500億円など投資は続きます。
手元資金の状況を考えると、投資を続けるための資金を確保し続ける必要がある状況にいるのは間違いありません。
先述した通り、この第4四半期以後に高利でも円建てで2500億円、ドル建てで4.5億ドルもの社債による調達を決めている理由が分かります。
24年からは設備投資の額は大きく減るため、来年以降の投資キャッシュフローまで含めた、キャッシュフローの状況には注目です。
なお今後に関しては有利子負債のさらなる積み増しの予定はないとしています。楽天銀行・証券の上場や業務・資本提携も検討しつつ資金は調達していくようです。
第4四半期は非金融事業での営業キャッシュがプラスに転じたとはいえ、楽天モバイルの契約数減が続く中で、安定してキャッシュフローのプラスの状況が続くかは分からない上、資金はまだ必要でしょうから、まずは子会社上場がうまくいくかに注目です。
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