「青春18きっぷ」包囲網が完成? JR各社の乗り放題きっぷがそろった:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)
「青春18きっぷ」が発売される。片道71キロメートル以上の往復で元が取れ、LCCや夜行バスでワープしてから使うのもいい。だが、ほかの交通手段と組み合わせるなら「青春18きっぷ」にこだわる必要はない。「青春18きっぷ」に代わるきっぷをつくるなら、筆者には心待ちの大本命がある。
「青春18きっぷ」に代わる本命は「あのきっぷ」の国内版
「青春18きっぷ」は圧倒的なネームバリューがある。青春18きっぷの旅は旅行者にとって旅のスタイルとして定着していて、シーズンごとにガイドブックが出版されたり、一般紙誌で特集されたりする。その結果として、鉄道旅行ビギナーの入り口としてなっている。「青春18きっぷ」をやめると、メインターゲットの18歳前後の若い人が鉄道の旅を経験しなくなる。シニア旅行者の鉄道離れが進む恐れがある。「青春18きっぷ」は、なくしてはいけないきっぷでもある。
問題は、青春18きっぷの旅に定着したまま、次のステップに上がってくれない利用者が少なくないことだ。JR各社独自の新しいフリーきっぷの狙いは「青春18きっぷ」の代替ではなく、「青春18きっぷ利用者の次のステップ」だろう。
「青春18きっぷ」のもうひとつの魅力は「JR旅客鉄道全線」だ。実際に全国くまなく旅する人は少ないから、JR各社ごとのきっぷでもいいけれど「全線どこでも」は「自由の象徴」であり「青春」のイメージに合致する。
「青春18きっぷ」に代わるきっぷをつくるなら、訪日外国人向けのJR全線きっぷ「ジャパンレールパス(JAPANRAILPASS)」の国内版をつくればいい。特急も乗れる「青春レールパス」とでも言おうか。これが大本命。登場を心から待ちたい。
ジャパンレールパス(JAPANRAILPASS)のフリー乗降区間。特急の第三セクター乗り入れ区間は別途運賃が必要という注意書きが多い。以外と面倒かも?(出典:JAPAN RAIL PASS、JAPANRAILPASSの路線適用範囲)
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICETHREETREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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