「青春18きっぷ」包囲網が完成? JR各社の乗り放題きっぷがそろった:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)
「青春18きっぷ」が発売される。片道71キロメートル以上の往復で元が取れ、LCCや夜行バスでワープしてから使うのもいい。だが、ほかの交通手段と組み合わせるなら「青春18きっぷ」にこだわる必要はない。「青春18きっぷ」に代わるきっぷをつくるなら、筆者には心待ちの大本命がある。
それでも「青春18きっぷ」が終わらない理由
2月8日にJRグループから「青春18きっぷ」の告知があって、安心する人も多かったと思う。なぜなら、JR各社の「おトクなきっぷ」は減少傾向だから。しかも予告なく販売を終了する。例えば、夫婦の年齢合計が88歳以上で使える「フルムーン夫婦グリーンパス」は22年に発売されなかった。ニュースサイトがJRに確認して廃止の事実が伝わった。「青春18きっぷ」だって同じように消えていくかもしれない。
私は12年3月に「青春18きっぷ」が存続している理由を考察した。「年間数十億も売り上げる商品を簡単にはやめられない。やめるためには、その売り上げを補う新しい商品が必要だ」。それから11年たって、予想通りの展開になりつつある。
【関連記事】「青春18きっぷ」が存続している理由(12年3月23日「杉山淳一の時事日想
」)
「青春18きっぷ」とほぼ同じ期間にJR各社独自のフリーきっぷがそろった。いわば「青春18きっぷ」包囲網の完成だ。JR各社は青春18きっぷより、自社の「新しいフリーきっぷ」を使ってもらいたい。なぜなら、全国規模の青春18きっぷは「売り上げの再分配問題」が潜んでいるからだ。
「青春18きっぷ」はJRグループが共同で販売する。その売り上げ配分は公開されていない。販売した会社の売り上げになるとか、JR各社で6等分するとか、路線距離で案分するなどと推測される。どちらで考えても不公平感が残る。素直に考えれば、販売した会社の売り上げになると思う。JR各社間の精算も不要だ。しかし結果として、人口の多い本州3社(JR東日本、JR東海、JR西日本)の売り上げが多く、3島会社(JR北海道、JR四国、JR九州)の売り上げは少ない。本州3社は売り上げは多いけれど、安売りが過ぎるともいえる。
6等分すれば、本州3社の売り上げを3島会社に差し出す形になる。「本州3社が3島会社を支援するツール」として機能する、という見方もある。私は「そうあってほしい」と思うけれども、本州3社にとっては税金のように売り上げを持っていかれるわけだ。距離で案分すると、今度は路線延長が少ない会社の取り分が減る。最も不公平感が出る会社はJR東海だ。路線延長はJR各社で下から2番目。中京圏でたくさん売っても他社に売り上げをさらわれてしまう。
この問題は「自社販売のフリーきっぷ」を販売することでスッキリと解決する。自社の取り分を増やせるし、青春18きっぷよりもっと使いやすくすれば値上げもできる。利用者にとってありがたい「青春18きっぷ」は、JR各社にとって国鉄時代に始まった「やっかいな制度」かもしれない。それでも売り上げが大きいだけにやめられない。
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