働かないおじさんを“一掃”すると、若者が犠牲になる──なぜ?(3/3 ページ)
「働かないおじさん」について議論されるようになって久しいですが、なかなか改革が進まないのはなぜでしょうか。日本型雇用慣行における2つの理由があります。
希望者全員が高校・大学に進学できる世の中ではなくなる
新卒一括採用を改革するとしたら、教育も改革しなければなりません。教育社会学者の本田由紀氏が著書『教育の職業的意義』(2009年、ちくま新書)で指摘しているように、日本の教育には職業に役立つことを教えるという意識が希薄です。
内閣府が実施した「世界青年意識調査」では、18〜24歳の若者が、大学レベルの教育の意義として「職業的技能の修得」を挙げた比率は、米国で60%超、英国で70%超であるのに対して、日本は30%です。この状況を改革しなければなりません。
高校は大学よりさらに大胆な改革が必要です。本田教授の分析によると、高校普通科卒の就労者は非正規社員比率が高く、正社員になったとしても長時間労働に巻き込まれる比率が高くなっています。
学校教育をより職業的な意味がある方向に改革するとしたら、高校普通科の多くを職業科に、大学文系学部の多くを理系学部に転換しなければなりません。これには大きな財源を要します。
もともと高校に普通科が、大学に文系学部が多いのは運営コストが低いからです。普通科と文系学部という「ドル箱」がなくなったら、職業科と理系学部の授業料も値上げせざるを得ません。
米国の私立大学は年間500万円近い学費がかかりますが、日本もこのくらいの水準まで上がるでしょう。普通科や文系学部の教員は失職してしまいますから、ここからも強い抵抗が起きるでしょう。
高校は進学校普通科と職業科中心、大学は理系学部中心になると、高校や大学全体の入学定員を大幅に減らさなければなりません。普通科や文系学部とは運営コストが違うからです。現在、高校進学率は95%、大学進学率は57%ですが、これらは低下を余儀なくされます。そんな政策を打ち出す政党があっても政権を獲れるはずがありませんから、まず無理です。
結局、「働かないおじさん」がいる現状を改革するためには、希望者全員が必ずどこかの高校や大学に進学でき、新卒者は優先的に就職できるという、欧米社会からみれば夢のような社会も改革しなければなりません。これは資本主義を共産主義に変えることに匹敵する革命です。
「働かないおじさん」改革が進まないのには、こうした理由があるのです。
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