「百貨店の利用者は中高年ばかり」は思い込み? そごう・西武がAIカメラで発見した意外な利用客:日本のリアル産業を救う“エッジAI最前線”(1/3 ページ)
そごう・西武では、エッジAIカメラを使って客層の解析を進めている。そこで見えたのは、若い世代の来店率が予想以上に高いことだった。データを基に進めた新たな取り組みとは。
日本のリアル産業を救う“エッジAI最前線”
リテール業界はエッジAIを使ったIoTによって飛躍的に進化できる──そう話すのは、AI開発スタートアップのIdein(イデイン、東京都千代田区)の中村晃一CEO。同社では、エッジAIのカメラやセンサー、マイクによってさまざまな店舗の収益改善に取り組んできた。本連載ではエッジAIを使ったIoTでどう収益性改善にアプローチできるのか、大型百貨店やコンビニ、対面接客といったケースごとの事例を基にその方法を紹介する。
今回取り上げるのは、大型百貨店におけるエッジAIの活用について。大型百貨店はリテール業界の中でも来店者数が圧倒的に多く、その人たちの属性や人流をくまなく分析するのは困難であるとされていた。その結果、会員カードを持つお客など、一部のデータをもとに経営判断せざるを得なかったといえる。
しかしエッジAIやIoTを使うことで、来店者の膨大なデータを分析することが可能になってきた。そしてそれらの分析を進めると、いままでの常識を覆す発見がいくつもあるという。
こうした考えを実証したのが、そごう・西武の事例だ。同社ではIdeinのエッジAIカメラで来店者を分析し、店舗改装やイベント企画のヒントにしている。実際にどんな発見があり、どう施策につなげたのか。そごう・西武 事業デザイン部の檀直樹氏を招き、中村氏と振り返った。
会員カード情報だけでは限界があった百貨店の「デモグラ分析」
中村氏(以下、敬称略): そごう・西武では、エッジAIカメラを使って来店者の分析を進めていますが、改めて、この取り組みがどんな課題感から始まったのか教えてください。
檀氏(以下、敬称略): 「お客さまの固定化」が進んでいたことが課題の一つです。多くの人が想像する通り、百貨店の売上を担うお客さまは高齢層に固定されつつあると予想していました。しかし来店者を分析した結果、それはある意味私たちの“思い込み”で、十分に若い世代のお客さまが来店していることが分かったのです。
その話は後ほど説明するとして「お客さまの固定化」という危機感から、新しい客層の取り込みや将来顧客の獲得が重要だと感じていたのです。となると、若い世代へのアプローチが求められます。
中村: これまでも若い世代に向けた施策は行ってきたのでしょうか。
檀: はい。1つの事例が西武渋谷店にあるCHOOSEBASE SHIBUYAです。いわゆるOMOの取り組みで、店頭でのオフライン購入、場所を選ばないオンライン購入のどちらも行える売り場にしました。従来の百貨店には少なかったD2Cブランドも増やし、20代をはじめとした若年層のお客さまに数多く足を運んでいただいています。
このような施策も行いつつ、さらに新しいお客さまを取り込むため、販売データでは確認できない非購入客も含めたデータを分析し、潜在ニーズを掘り起こしたいと考えたのです。ECでは、お客さまがどこから来てどうサイトを巡回し、何を買ったのか、あるいはどこで離脱したのかが全て可視化されます。ECの当たり前をリアル店舗でも当たり前にしたいと考えたのです。
中村: そこでエッジAIカメラを使った取り組みに至ったわけですね。
檀: 具体的には、エッジAIカメラを使ってお客さまの年齢や性別といったデモグラフィックデータ(デモグラ情報)を取得。フロアごとにエッジAIカメラを設置し、来訪者を分析しました。なお、このデータは個人情報に抵触しないテキストデータで取得しています。
これまで私たちは、会員カードによってお客さまのデモグラ情報を取っていました。しかしカード契約をしているお客さまだけでは、限定的なデータしか取れません。これまでも店舗の入口で顧客の写真を撮り、人の動きや属性を分析することは実施していました。しかし、これもあくまでその瞬間のデータしか残りません。今回のAIカメラは、定量的に大量の人流をデータ化できる点がポイントでした。
中村: 店舗が競争力をつけるには、まずデモグラや人流といった“現状”の把握が大切です。しかし、百貨店は現状把握が容易ではありません。大量の人流を人間の目だけで判断するのはどうしても限界があります。そこでこういったエッジAIカメラの活用は有効になると思っています。
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