「百貨店の利用者は中高年ばかり」は思い込み? そごう・西武がAIカメラで発見した意外な利用客:日本のリアル産業を救う“エッジAI最前線”(2/3 ページ)
そごう・西武では、エッジAIカメラを使って客層の解析を進めている。そこで見えたのは、若い世代の来店率が予想以上に高いことだった。データを基に進めた新たな取り組みとは。
データを取って判明した「30代へのアプローチ」の勝算
中村: 実際にデータを取得・分析してみて、どんな発見があったのでしょうか。
檀: 一番大きかったのは、お客さまの「世代」に関する発見です。百貨店の売上は50歳以上のお客さまが中心になっており、30代以下は割合が低い傾向にあります。
そのため来店者層も、現場では「30代以下は1割ほど」という肌感覚を持っていました。しかしデモグラを取ると、約3割を占めることが判明しました。若い世代のお客さまは購買に結び付きにくいので、知らず知らずのうちに「30代以下は少ない」というフィルターをかけていたのです。
この結果をヒントに、若年層に向けたコーナーを実験的に差し込むと、30代以下の来店者が増加しました。しかも目的を持って来店するため、購買につながっていきました。つまり、30代以下のお客さまも打ち手次第で成果が出ることがデータで判明したのです。
中村: これらをベースに、30代以下に向けた施策を本格的に進めていましたよね。
檀: 実際に取り組んだ施策として、そごう大宮店の改装に合わせて地下1階の食品売り場のレイアウトを変更し、動線をとりやすくしました。30代以下は子育て世代が多く、ベビーカーを押しながらでも買い物しやすくするためです。
すでに改装前後のAIカメラによるデータを分析しており、30代以下の来店が改装前に比べて増加していることが分かりました。これを基に他店舗でも同様の取り組みを実施する予定です。また、大宮店は2階入口がメインになっており、地下の食品売り場に来る方の多くがエスカレーターで下ってきます。実際に、半分以上がこのルートでした。
改装では、エスカレーターからの売場の見通しを良くし、フロア内にあった厨房をバックヤードに移設しています。その効果検証をエッジAIカメラで実施したところ、これまで流入が少なかった場所にもお客さまが来るようになり、フロア全体の回遊性が良くなっていることを定量的に確認できました。
中村: 人の消費行動は限りなく「科学」であり、フロアの構造などで行動に一定の傾向が出ます。エッジAIカメラでその傾向をつかみ、店舗競争力につなげた事例だと思います。
檀: その他、西武池袋本店では催事場に関する施策も行いました。2022年10月から催事場にエッジAIカメラをつけ、期間内に行われた3つの催事の来店者のデモグラを計測しました。すると、毎年開催している「京都名匠会」に訪れたお客さまの3割近くが30代以下であることが分かったのです。
中村: この結果については、驚きの声が多かったことを覚えています。
檀: 京都名匠会は京都の工芸品や織物、食料品などの販売イベントで、年配者の来客が多いと想定していました。しかし、実際は若年層の引きが強かった。これは意外でした。この結果から、今後は若年層がより京都名匠会を楽しめるよう、抹茶のスイーツを用意したり、“映え”やすいものを取り入れたりしようといったアイデアが出ています。
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