「百貨店の利用者は中高年ばかり」は思い込み? そごう・西武がAIカメラで発見した意外な利用客:日本のリアル産業を救う“エッジAI最前線”(3/3 ページ)
そごう・西武では、エッジAIカメラを使って客層の解析を進めている。そこで見えたのは、若い世代の来店率が予想以上に高いことだった。データを基に進めた新たな取り組みとは。
見据えるのは「百貨店によるプロパティ・マネジメント」
中村: 今後、エッジAIカメラを使った分析として考えていることはありますか。
檀: 階をまたいだお客さまの回遊分析です。例えば大宮店では、メインの入口がある2階にいたお客さまが、その後どれだけの時間をかけて地下の食品売り場を訪れたかを分析する予定です。
仮に2階から入り、すぐに地下の食品売り場を訪れたなら、それが来店の動機だと分かりますし、時間がかかった場合は他のフロアの“ついで”とも考えられます。お客さまが店を訪れた動機を把握することで、2階入口に設置しているデジタルサイネージの活用にも生かせると考えています。食品売り場に直行するお客さまが多い時間帯は、それに合わせた表示にするといった打ち手ができるはずです。
中村: 階をまたぐお客さまの回遊分析には、FaceIDによる技術(ReID)が使われています。顔の特徴点をベクトルデータ化してIDを振り、同じ顔の特徴を持つ人物が各フロアのカメラに映ったら同一人物と識別。各人の回遊状況を把握しています。
このような分析により、データに基づいた施策を用意できれば、百貨店にとって重要な店舗競争力になるのではないしょうか。
檀: その上で私たちが目指すのは、百貨店がプロパティ・マネジメントを行うことです。人流データをわれわれの分析材料にするだけでなく、テナントの方にサービスの一環として提供する。あるいはデータを基に、売上向上につながるイベントや販促を考え提案する。そうして資産価値を上げていくのが理想です。
さらに、こういったデータやそれに基づくコンサルティングをテナントや他の施設に提供できれば、新しい価値にもなります。加えて、最終的にはお客さまが家を出るところから来店するまでのルート、店内の回遊状況、最後に購入したものまで、カスタマージャーニーをつなげて分析できたらと考えています。
中村: そこまで長いスパンで考えていただけるのはうれしいですね。カスタマージャーニーを分析するにはたくさんの協力が必要ですが、皆さんでスクラムを組んで、よりよいものにしていきたい。それはきっと人々の満足や世の中への貢献にもなると思います。
檀: 大切なのは、こういった分析がお客さまの体験向上につながることです。買い物が楽しくなったり、施設内で行動しやすくなったりするためにデータがあるはず。その考えのもと、これからも取り組みを進めていきたいですね。
本記事から考えるエッジAIの活用ポイント
1今まで捉えきれなかった膨大なデモグラを定量で測る
2データに基づいた施策を進め、その効果測定も行える
3イメージとは違う人流の実態を基に店舗を設計できる
4これらのデータを使い、百貨店がプロパティ・マネジメントを行える
著者プロフィール
Idein(イデイン) CEO 中村 晃一
1984年生まれ、岩手県出身。東京大学大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻後期博士課程にて、スーパーコンピュータのための最適化コンパイラ技術を研究。AI/IoT技術を利用して物理世界をデータ化する事業にチャレンジしたいという思いから、大学を中退し2015年にIdeinを設立。18年には半導体大手の英ARM社から「ARM Innovator」に日本人(個人)として初めて選出された。プログラミング・ものづくりと数学や物理などの学問が好き。趣味でジャズピアノをひく。
関連記事
- 「駅ナカ無人コンビニ」から3年 仕掛け人が語る“野望”と10年後の小売ビジネス
小売業を取り巻く課題はここ数十年で多様化し、ビジネスモデルの変革や生産性の向上が急務となっている。そんな中、IT技術を活用した無人決済システムを通じて小売業の課題解決を目指す企業がある。それが「TOUCH TO GO」だ。同社の阿久津智紀社長にTTGが目指す新たな小売業の姿を聞いた。 - 「レジ横ホットスナック」で稼ぐビジネスモデルは通用しなくなる? 人口減の中、小売業はどう生き残る
TOUCH TO GO社長の阿久津氏は、小売業界全体の課題をどのように捉え、解決へ向けどう取り組めばよいと考えているのだろうか。尋ねたところ、「コスト高」と「マーケットの縮小」の2つを課題として挙げる。 - ファミマが掲げる“無人1000店” 小型・無人化で開拓する新たな商圏とは?
コロナ禍の影響もあって注目を集めている無人決済店舗。その導入で1歩リードしているコンビニが、ファミリーマートだ。なぜファミマは導入を加速させているのか。担当者に聞いた。 - ビジネスホテルの“無料朝食”、気になる原価は一体いくら? 激化する“朝食合戦”から見るホテルの今
ホテルが朝食で特色を出そうとしていることは、宿泊者としてひしひしと感じる時がある。新たな施設の建設やリノベーションを施せば特色は強く打ち出せるが、コストはバカにならない。朝食は差別化のアイテムとして取り組みやすい部分なのだろう。 - 広い売り場と大きな看板の店舗を劇的に“縮小” 洋服の青山が導入する「デジタル・ラボ」の威力
近年、実店舗とオンラインを融合させたOMO型店舗の出店が加速。2016年から開発に力を入れているのが「洋服の青山」を展開する青山商事だ。独自で開発した「デジタル・ラボ」の導入を進めている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.