トヨタの新社長就任で、どんなクルマが出てくるのか:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/7 ページ)
トヨタ自動車の方針説明会で、どのようなことが語られたのか。中嶋裕樹副社長の説明パートを中心にトヨタのクルマづくりがどうなっていくかを見ていこう。
どう進めるのか
それだけで工程が2人の1まで圧縮できるとはちょっと考えにくいが、中島副社長がそこをどう説明しているか? 再びスピーチを抜き出してみよう。
「強みであるトヨタ生産方式を生かし、仕事のやり方を変え、工程数を2分の1に削減。コネクティッド技術による無人搬送や、自律走行検査などで、効率的なラインへシフト、工場の景色をガラっと変えます」
と、工場のカイゼンをメインに説明している。2分の1というインパクトに対して、ここは若干手応えが足りない感じがしなくもないが、「見せてもらおうか、トヨタ生産方式の進歩とやらを」というところである。
コロナ禍以降のサプライチェーン問題を含めて調達を大幅に見直すことは、BEVのみならず、本業の中核として重要なので、ここはおそらくトヨタの総力を挙げて最適化していくことになるだろう。価格低減効果がどの程度あるかは分からないが、このお題自体はこれまでトヨタがまさに得意としてきたところなので、大きな削減が期待できるかもしれない。
専任組織を新設
さて、既にスクープ報道で伝えられている通り、トヨタは次世代BEV用の「専任組織」を新設する。先行した報道を認めた形である。
実は筆者はこのページを穴が開くほど見た。初見での第一印象は、「新カンパニーの設立」に見えた。しかしどうにも引っ掛かる。カンパニーの設立であれば「New specialized unit」ではなく「New unit」か「Specialized unit」のどちらかでいいのではないか。「新組織」でもなく「特別組織」でもなく、屋上屋を重ねて「新特別組織」とする理由は何か?
そう疑念を持って見始めると「開発」と「生産」に加えて「事業」が並んでいる部分も気になる。カンパニーは本質的に独立採算なので、「事業」が絶対入らないのかといわれると微妙なのだが、間接部門を含むのかどうかが1つの分岐点になるだろう。ワンリーダーによるオールインワンのチームを言葉通りに捉えると、間接部門を含む形だと考えられる。そういう観点で見ると、この専任組織の新設は、まるで別の新会社を設立すると言っているように見える。
そうなるともうあちこち怪しい。下段の(従来BEV含む)もまた引っ掛かるのだ。このページタイトルの「次世代BEV」には、少なくともこれまで発売されている5台のBEVは含まないことになる。BEVの専任組織を設立するのに、既存のBEVモデルをそちらに移管しないとは何を意味するのか? 減価償却がトヨタに残っているものは持っていかないという意味なのではないかという疑念が頭をもたげる。
それ以上に問題なのは「1000万台で支える」だ。1000万台は言うまでもなく従来のトヨタの社内カンパニーの合計、つまりオールトヨタである。トヨタが全力で支えるという文脈で読み解くと、もうこれは新会社設立の話をしているようにしか見えなくなる。
腹をくくった大勝負のために、大変革を起こすのであれば、既存の組織やルールを引きずるのは手かせ足かせになるだろう。だったら、もう真っ白なカンバスにゼロから絵を描く方が速いし楽だ。言ってみればテスラがたどってきた道を、太い実家に支えてもらいながら一気に駆けあがろうという話ではないのだろうか? もしかしたら筆者の勘繰りすぎで、「ふたを開けてみたらただのカンパニーでした」という可能性は十分にあるのだが、今の筆者にはいろいろ匂う感じがしてならない。
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