トヨタの新社長就任で、どんなクルマが出てくるのか:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/7 ページ)
トヨタ自動車の方針説明会で、どのようなことが語られたのか。中嶋裕樹副社長の説明パートを中心にトヨタのクルマづくりがどうなっていくかを見ていこう。
航続距離を2倍に
さて、コンセプトカーから離れよう。もう1つ、明らかになったのは、電池の使い方を中心に航続距離を2倍にするという目標だ。航続距離2倍もすごいが、技術の使い方によっては、従来の航続距離にとどめてバッテリー容量を半分にできる可能性も秘めている。
1台当たり200万から300万円といわれているバッテリー価格の半分をコストカットできれば価格的に大きなアドバンテージを取れるはずだ。つまり高価格モデルでは航続距離延伸に、低価格モデルでは価格の低減に使える技術だということになる。
以前バッテリーに関する発表会の中でトヨタが説明した「バッテリー価格半減案」を思い起こさせる。電極素材の組成をコンピュータシミュレーション解析することによって、安全(要するに発火抑制だ)に影響を与えることなく高価な希少金属の使用量を大幅に削減することで、30%のコスト低減。空力を中心とした車体側の技術でも30%を低減する。対数を取って7掛けの7掛けで0.49、つまり50%削減するという話だった。おそらくはこの話の延長で、航続距離2倍という数字が出ているものと思われる。
問題は150万台の部分だろう。果たして3年後までに、BEVを150万台も販売できるのかといえば、正直なところかなり難しい課題だと思う。10モデルかつ年間150万台、これに発表&発売済みの5モデル(UX300e、C+Pod、bZ4X、bZ3X、RZ)を加えても1モデル平均で10万台は売らなくてはならない。元より勝算なしのただの掛け声ならばそれまでだが、もし本気で実現するのであれば、高価格モデルだけを売っても達成できる数字ではない。ある程度リーズナブルな価格で、それなりの実用性能を持つモデルがなければ難しいだろう。
それをどう進めるかの話が図3になる。衝撃的なのは左側の、開発生産の工程を2分の1にという部分だ。確かにBEVは生産が楽な部分がある。BEV化による部品点数削減の話はすでに耳にタコができるほど聞いているだろうが、もう1つの利点はパワートレインが小さいことと、吸排気系や燃料タンクが不要なことだ。それらを避ける必要がない分骨材をストレートに通せることでフレームの設計は単純化できるはずで、当然加工工程は減ることになる。
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