東芝はどこでしくじったのか 上場廃止と「物言う株主」排除が意味すること:過去を検証(4/6 ページ)
東芝が日本産業パートナーズからの買収提案を受け入れ、上場廃止に向けて動き出した。かつては日本を代表する企業だった同社は、一体どこでしくじったのか。中小企業診断士の視点で検証する。
アクティビストとは何者か
「利益はすべて株主のもの」。アクティビストたちはこう考える。利益の使途は、「株主還元」か「成長投資」のみ。多額の「内部留保」(資本の部「利益剰余金」を指す。本稿では企業内に留まっている現金と同等に扱う)は見過ごせない。配当増額・自社株買取で今すぐ還元するか、成長投資で将来還元すべき。こっちは、それだけのリスクを冒してる。利益が出なくても給料がもらえる経営者や従業員とは違うのだ。
彼らは、この考えに基づき「経営改善案」を練る。他の投資家と共同戦線を張る。経営陣に改善案を飲ませ、企業価値(株価)を高め、最終的には売却益を得る。「物言う」だけではない。積極的に「活動」する。それがアクティビストと呼ばれるゆえんだ。
日本でもっとも著名なアクティビストは、旧「村上ファンド」の村上世彰氏だろう。その村上氏率いるファンドで、勤務していた高坂卓志氏や今井陽一郎氏らが創立したのが「エフィッシモ・キャピタル・マネジメント」である。現在、東芝株の9.9%を保有する筆頭株主だ。
【訂正履歴:2023年4月20日午後0時30分 記事初出時、東芝の筆頭株主について、「村上世彰氏が率いる」としておりましたが、正しくは「村上世彰氏率いるファンドに勤務していた高坂卓志氏や今井陽一郎氏らが創立した」でした。訂正し、お詫びいたします】
村上氏は著書『生涯投資家』(文藝春秋)にて以下のように述べる。
「企業は株主のために、利益を上げなければならない。それが嫌なら、上場をやめてプライベートカンパニーになるか、利益を資金の出し手に還元しない非営利団体として社会貢献を主軸に置く、などの選択をするべきなのだ」
「正論」である。だが、このように強い信念の投資家「60社」から、出資を受け入れることが何を意味するか。どんな結果を生むか。そうまでして上場を維持すべきか。東芝経営陣は考えるべきだった。
東芝は株式の公開買い付けについて「異なる考えを持つ主要株主が複数存在している現在の状況」「安定した事業運営にとって難しい状況」と、株主総会で決議できず、中長期的な戦略立案もままならない現状を説明する。
アクティビストは、調査・分析能力が高く提案が的確だ。「企業経営者の尻を叩く役目を担っている」と主張する識者も少なくない。だが、今回は、経営の足を引っ張る悪例となってしまったようだ。
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