就活オワハラ、なぜなくならない? 学生に「大人の圧力」振りかざす企業の苦しい事情とは:働き方の見取り図(4/4 ページ)
企業が就職活動をする学生に迫る「オワハラ」(就活終われハラスメント)が問題となっている。オワハラが社会問題として広く認知され、流行語大賞にノミネートされたのは2015年。それから8年の歳月を経てもなお、なぜオワハラはなくならないのか。
SNSで告発される恐れも
そして、さらに怖いのはSNSの存在。いまや、誰もが情報発信者の時代です。学生たちも例外ではありません。オワハラを受けた学生が発信した情報が広く社会の目に触れることになり、オワハラする会社というレッテルを貼られてしまうと、今後の採用活動において致命傷です。そうなると会社は、採用コストをムダにするか否かという次元では収まらないほど、大きな損害を被ることになるかもしれません。
同じように、社会の入り口に立つ学生に“大人の圧力”をかけて、意のままに操ろうとする大人のズルい行為は、オワハラに限らず新卒採用をめぐるあらゆるシーンで見られます。例えばセクハラ。エントリーシートを添削するなどの理由をつけて採用担当者が女子学生を呼び出し、わいせつな行為をしたというとんでもない事例もあります。
また、こちらの記事(「学生の「内定辞退」阻止を狙う“後付け推薦”の実態とは? 立教大が企業に苦言)でも取り上げられている後付け推薦を求める行為なども、“大人の圧力”で学生を意のままに操ろうとしている点で、根っこは全く同じです。
オワハラが会社を滅ぼす元凶に
オワハラやセクハラ、後付け推薦など採用担当者が“大人の圧力”を使って学生を操ろうとする行為には、すべて先ほどの表の分類が当てはまります。「退職予備軍」と「アンチ客予備軍」を増やし続けることになるだけで、百害あって一利なしです。
自社への入社は、あくまで学生が自らの意思で選択した結果でなければならないものです。自社が選ばれるようにするために、人事部門には会社のエンプロイメンタビリティ(employmentability:会社の雇用能力)を高める取り組みが求められます。採用担当者が“大人の圧力”をかけて職業選択の自由を奪おうとする会社と“大人の包容力”で学生の意思を尊重し、後悔しない就活を後押ししてくれる会社。エンプロイメンタビリティが高く学生に選ばれる会社は、果たしてどちらでしょうか。
いまから8年後の2041年に、大学卒業年齢に達する2018年生まれは91万8400人。これは就職氷河期世代の平均値の約半数になります。つまり、8年後の新卒採用は就職氷河期世代の新卒採用の2倍の難しさになることが既に見えているということです。それなのに、採用担当者がオワハラして会社にデメリットをもたらすような人事部門など、存在意義が疑われるのはもちろん、会社を滅ぼす元凶にさえなりかねません。
著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ4万人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
関連記事
- 学生の「内定辞退」阻止を狙う“後付け推薦”の実態とは? 立教大が企業に苦言
「内定がほしければ大学の推薦状を提出してください」。就職活動の選考プロセスが進んだ段階で、学生が企業から「推薦状」の提出を求められるケースが近年、増えているという。推薦状を提出させることで学生の内定辞退を阻止する狙いがあると考えられ、専門家は「学生を無理に束縛するような採用手法は自社の評判を下げるだけ」だと指摘する。 - セクハラや不祥事「SNSで告発」 なぜ内部の相談窓口は信用されないのか
ハラスメント被害や企業の不祥事が交流サイト(SNS)に投稿され、組織が大きなダメージを負うケースが相次いでいる。直近では、帝京大の男子学生が男性教授から差別的な対応を受けたとする内容がTwitterに投稿され、大学側は事実関係の調査を始めた。多くの組織が内部の相談窓口を設置している一方で、SNSに情報が晒(さら)されるのはなぜなのか。 - ペンギン池騒動と職場セクハラの共通項 笑いと非難の境界線はどこに
お笑いタレントが動物園のペンギン池に落下し物議をかもした。擁護する声がある一方、ネット上には「動物の尊厳を傷つける行為」「やっていることが回転ずし店での迷惑行為と変わらない」など厳しい言葉があふれた。自ら池などに落ちて笑いを誘うシーンは見慣れた光景でもあるはずなのに、今回の行為は一体何が問題だったのか。 - 国会でも問題視 障害者雇用「支援」サービスは、何が問題なのか メリットとデメリットを冷静に整理する
障害者雇用の「代行」サービスを巡る報道が物議を醸している。批判が集まる一方で「雇用はされている」と擁護する声も。実際のところ、何が問題なのか。メリットとデメリットを整理する。 - 三井物産も解禁「副業ブーム」は到来するのか? “生涯一社主義”が崩れゆく理由
大手総合商社の三井物産が副業を認めたと報じられ話題が集まった。「素晴らしい」「いい流れ」などと評価する声がある一方で、「賃金削減の一環では」といった冷ややかな声も。今後、副業解禁の波はどんどん広がっていくことになるのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.