トヨタが“あえて”「全方位戦略」を採る理由 「EV全面シフト」の欧米と一線(5/5 ページ)
トップの座を豊田章男会長からバトンタッチを受けた佐藤恒治社長自身がBEV強化とともに、前社長の「全方位戦略」を踏襲する方針を明言した。欧米勢が「EV全面シフト」を採る中、トヨタの真意を解説する。
佐藤社長「エネルギー安全保障」に言及 電気依存のリスク
ではなぜトヨタがここまで、BEV以外の内燃エンジン型脱CO2カーの開発にもこだわっているのでしょうか。一つは佐藤新社長が日経ビジネスへのインタビューで答えているように「頼るエネルギーを電気に一本化した時、仮に電気に何か問題が起きたらエネルギー安全保障をどう担保するのか」という業界リーダーとしての視点です。
そしてもう一つは、巨大自動車産業の垂直統合ビジネスモデルの頂点に立つトヨタであるがゆえ、膨大な数の下請け企業とそこで働く人たちを守るために、内燃エンジン型の脱CO2 カーの可能性を追求していると思えます。
EVシフトで雇用消失も 「トヨタ帝国」の行方
従来のガソリン車が約3万点の部品で構成されていたのに対し、BEVは部品点数が3〜4割り減るとされており、内燃エンジン車がBEVに取って代わられることはすなわち、トヨタを頂点とする垂直分業ビジネスモデルにおける下請け企業とそこで働く人たちの死活問題に直結するのです。
連結企業だけでも37万人の従業員を抱える「トヨタ帝国」ですから、下請けの裾野の広さを考えれば、とんでもない数の人たちの生活を脅かしかねない問題でもあるのです。だからこそ安易にBEV一辺倒に走ることなく、内燃エンジンを持つHEVやFCEV、水素エンジン車の開発・製造にこだわり続けているわけなのです。
このようにトヨタの全方位戦略には、世界のトップ企業であるがゆえの狙いと理由があるのです。豊田会長肝入りのトヨタの全方位戦略が、佐藤新社長の下でどのように展開されどのような結果をもたらしていくのか。この戦略選択は一企業の浮沈にとどまらず、その成否が日本経済にも多大な影響を及ぼしかねない重大なものであり、引き続き大きな関心を持って見守っていく必要がありそうです。
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