トヨタが“あえて”「全方位戦略」を採る理由 「EV全面シフト」の欧米と一線(4/5 ページ)
トップの座を豊田章男会長からバトンタッチを受けた佐藤恒治社長自身がBEV強化とともに、前社長の「全方位戦略」を踏襲する方針を明言した。欧米勢が「EV全面シフト」を採る中、トヨタの真意を解説する。
会長肝入りの水素 「脱炭素化に選択肢必要」
トヨタの全方位戦略の中で、他社との最大の相違点であり、HEV、BEVに加えて新たな期待を寄せているのが、水素を活用した脱CO2カーです。これには、FCEVと水素を燃やして走る水素エンジン車があります。
前者は「MIRAI」(ミライ)として既に商品化されてはいますが価格が700万円以上と高価であり、かつ水素ステーションが未整備であるという現実からまだまだ実用的とは言いがたく、22年1年間に全世界で販売されたのはわずか4000台にとどまっています。しかしながら、水素は次世代の燃料として注目されており、「脱炭素化には選択肢が必要」と話す豊田会長の肝煎り案件でもあるのです。
タイ大手企業と水素利用で業務提携
この戦略への力の入り様を裏付ける動きが、22年12月にありました。タイ・トヨタ60周年に合わせ現地最大のコングロマリットであるCP(チャロン・ポカパン)グループとの業務提携を発表したのですが、その内容が水素でした。
CPの主力事業の一つである畜産事業の排出物であるメタンガスから水素を生成し、それを活用した水素活用車の開発を実現するというのです。ちなみに水素FCEVは自家発電で動き、水素燃料の充填がガソリン並みに短時間でできる強みがあります。
これまで水素の活用がCO2削減カーに有効ではないとされてきたのは、水素生成時にCO2が排出されるとの指摘によるものでした。しかし、糞尿メタンガスからの水素生成であれば、この問題はクリアできるという算段なのです。
この提携発表には、日本から日本自動車工業会(自工会)クラブの記者を大挙引き連れて取材ツアーまで組むという力の入れようだったといいます。豊田会長(当時は社長)はこの提携発表時に、CPと共同でタイでのカーボンニュートラル(CN)の実現を目指すと高らかに宣言しています。
会長が描く最終的なゴールはタイにとどまるものではないでしょう。アジアにおけるCPの影響力を駆使して、まずはASEAN(東南アジア諸国連合)地域全体で水素を活用したCNへの貢献を実現する。そしてそれを全世界にアピールすることで、「脱CO2排出車=BEV」の流れを大きく変えようと目論んでいるのではないか、とすら思える動きでもあったのです。
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