トヨタが“あえて”「全方位戦略」を採る理由 「EV全面シフト」の欧米と一線(3/5 ページ)
トップの座を豊田章男会長からバトンタッチを受けた佐藤恒治社長自身がBEV強化とともに、前社長の「全方位戦略」を踏襲する方針を明言した。欧米勢が「EV全面シフト」を採る中、トヨタの真意を解説する。
全方位戦略から分かるトヨタの狙い
トヨタの全方位戦略は、同社のお家芸ともいえるHEV、今や世界が足並みを揃えて推進するBEV、そして水素を使ったFCEV、さらには水素エンジン車、これらの脱CO2カーの開発・販売にすべてに本気で取り組むというものです。海外から「日本つぶし」「トヨタつぶし」的に脱CO2カー失格と叩かれ続けるHEVを引き続き柱の1つに据えているのには、外圧に屈するわけにはいかないという業界リーダーとしての意地とプライドだけではない理由があるのです。
そうした理由の1つが、今後、トヨタのHEV事業の大きな役割として期待されているアジアを中心とした、新興国向けのビジネスでのEV活用です。これらの国では現在ガソリン車を中心とした自動車市場そのものが拡大基調にあり、今後は一定のCO2削減が実現できる「環境にやさしい」HEV車の需要増加が見込まれています。先進国を席巻してきたトヨタのHEVを今後は対新興国に活用することで、全方位戦略費用確保に向けた大きな収益源として期待されているのです。
EVへの取り組みに関しては、何より今のタイミングでEV開発に明るい佐藤新社長に経営のバトンを渡したということに、その本気度を世に示したかったという豊田会長の思いがにじんでいます。
21年暮れに豊田会長(当時社長)が「2030年・BEV30モデル・350万台」を表明してはいたものの、「トヨタの本気度が見えにくい」と言われていただけに、今般の「2026年・BEV10モデル・150万台」宣言はEVに対する本気の取り組みを示すべく、その道筋をより具体的に提示したといえるでしょう。
しかしトヨタのBEV販売は、22年が2万台で世界28位。BEV市場のシェアに至っては、わずか0.3%です。ここからの失地回復策ですが、まずは大票田かつ高単価な米国を攻めるのが常套手段となるでしょう。
そのためには現地生産が必須条件となり、早速、米ケンタッキー州の工場を改修して25年から生産を開始し、26年に年20万台の生産体制を目指す計画を進めています。同時に、米国政府による新たな環境規制やBEV購入者への税制優遇への対応も視野に、電池も現地生産に切り替える計画が俎上に上がっています。米国でのゼロスタートが果たして計画通りに進むのか、世界のトヨタにとっても大きな試練になりそうです。
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