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ChatGPT創業者が慶大生に語る AIの進化で資本主義はどう変わるか?雇用とリスクへの見解(2/2 ページ)

ChatGPT開発企業である米OpenAI社のサム・アルトマンCEOが6月12日に来日し、慶應義塾大学三田キャンパスで学生たちの質疑に答えた。AIの進化によって資本主義経済はどう変わるのか。学生の前で語った真意に迫る。

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貧しい人と富める人 AIはどちらに有用か?

――AIは社会を形作っていて、なくなる雇用も出てくると思います。ここに座っている人たちは存続する仕事を持ち続けることもできるかと思いますが、しかしながら貧しい人たち、低所得の国の人たちのためには何ができるでしょうか。

 2つできることがあると思います。まず、この技術の革命というのはみんなを引き上げるのです。最も貧しい人たちが最も大きく助けられるのです。その意味するところを考えると、例えば医療サービスは貧しい人たちにとって、全世界的に手が届かないわけですけれども、素晴らしい医療のアドバイスをAIによって無料にできれば、非常に大きく役立つわけです。

 あとは教育ですね。豊かな人たちは教育にお金をかけられます。一方、その素晴らしい教育を無料に近い価格でみんなに提供することができれば、富める人たちよりも貧しい人たちの方が助かるわけです。

 他の技術でも同じことは起こっています。例えばiPhoneは平等化に大いに役立ちました。AIも同様に、平等化に役立つ技術だと思います。私たちの技術は職業がシフトするきっかけになるということですね。

 10年前の専門家に聞いたなら、この自動化は人々にとって非常にマイナスだという人もいたと思います。肉体労働者や知的労働者が淘汰され、コンピュータープログラマーのような高い知的な仕事をしている人も職がなくなり、「クリエイティビティも乗っ取られるかもしれない」という人もいました。しかし、実態としてはこれに全く逆行しているわけですね。Uberのように、街の中で届ける肉体労働の需要も高まっています。予想がつかないわけです。

 それでも私たちはいろんなことを探求しなければなりません。ベーシックインカムもそうですね。AIによって変化がもたらされる世界で、資本主義経済的な社会の契約形態が変わってくると思います。資本主義が今と全く同じような形で続くならば、労働力を活用する部分が多すぎるのが課題かもしれません。だから何とかしなければなりません。ただ全体的に考えれば、AIは貧しい人のほうが富める人よりも救うものだと思います。

――AIの発展によって、動画の生成をはじめ、ミスディレクションの危険性が高まっています。何が真実なのか分かりにくくなる恐怖があります。どうやったらそういったリスクを緩和できるのでしょうか。

 まず、すでに今の状況というのは良くない状況です。もちろんわれわれは悪化させようという気はないのですが、どうやって改善できるかを、技術を使って考えるべきだと思います。

 これにはいろんなことを試せると思います。例えば透かしの技術に取り組んでいる人もいます。また、ブラウザやスマホ、あるいはサイトの中でチェック機能を埋め込むこともできるでしょう。社会として、こうしたことには適応できると思います。

 例えば画像編集ソフトのPhotoshopができたときにも、画像に騙された人がいました。しかし時が経つにつれ、人々のリテラシーは高まりました。Photoshopの成果物は必ずしも信用できるものではないことが分かってきたわけです。

 人々は学ぶことによって、全く新しいものに備えられると思っています。

――日本ではChatGPTを会話ツールのように、ビジネス用途ではなくエンターテインメント用途に使う人も少なくないように思います。ChatGPTのエンタメ志向の利用についてはどう考えていますか。

 楽しんでいるならばそれでいいと思います。私はそれを非常に支持します。ChatGPTの使い方については、われわれが指示すべきことではないですね。まだ生まれたばかりの技術ですので、学習していただく流れで、使い方を話してくれることは素晴らしいと思います。その学習によって、後の段階でビジネスにも使われると思います。

 今日ここにいる皆さんは20歳前後で、この素晴らしい革命的なツールを使いこなす上で、パーフェクトな年齢なんですね。こういうことは頻繁に起きることではありません。できるだけChatGPTをはじめとした生成AIになじんでいただきたいと思います。あとで非常に価値あるものになってきますから、とてもラッキーな世代だと思います。

 とにかく新しい技術になじんで、それらを使いこなし、世界でいかにして生産性を上げるかを考えてください。そうすることで、どんな努力をしてもきっと素晴らしい時間を過ごせると思います。


伊藤公平慶應義塾長(左)とアルトマンCEO
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